過剰な負担がかかっている細胞・遺伝子治療の治験インフラを強固にする手段

By Kathy Scott, Associate Site Alliance Director

4 min

過剰な負担がかかっている細胞・遺伝子治療の治験インフラを強固にする手段

FDA細胞・遺伝子治療 (CAGT) の治験に適格な治験実施施設は限られますが、FDAによれば2016年以降に治験数が急増し、現在では2,500件を超える治験が動いています¹。そのほとんどは最高水準の学術研究機関であり、そうした機関のスタッフが燃え尽き症候群に陥っているというデータもあります²。パレクセルのサイトアライアンス米国チームでアソシエイト ディレクターを務めるKathy Scottは、この膨れ上がり続ける危機的状況の最前線で働いています。地域に根ざした施設にCAGT研究を拡大し、より持続可能なシステムを構築するために、治験依頼者、施設、臨床研究機関 (CRO) それぞれが今できることは何でしょうか。Kathyがそのビジョンを語ります。

再建に求められる協働と提起される困難な問題

CAGT治験に同じ学術研究機関を利用することは、治験実施施設を疲弊させ、多様性が失われた患者構成を常態化させ、新しい治療法へのアクセスが妨げられる結果を招きます。過度な負担のかかっている施設から、地域に根ざした施設に治験を移せばそうした問題を解決できるかもしれませんが、それには主要なステークホルダーの協力と資本投資が必要です。 

2023年3月にSCRSオンコロジー サイト ソリューション サミットが開催され、私はこのテーマについて話し合うパネル ディスカッションに参加しました。治験実施施設、治験依頼者、CROの出席者の間では、将来の製品開発のために十分な施設を確保するには、CAGT治験を地域社会に移行させることが不可欠であるという点で、幅広い合意が得られました。1時間に及ぶ徹底した討論も終盤に差し掛かったところで、ある施設の代表者から次のような問いかけがありました。「私たち全員が同じテーブルについて、こうした議論を始めることはできないでしょうか?私たちは閉ざされた環境の中で議論を続けています。」その訴えには心に響くものがありました。

私はパレクセルで働く中で、CAGTの臨床研究を志している施設がフラストレーションを感じていることに気付きました。このような複雑な治験を実施するために必要な運用上の必要事項がまとめられたリソースが見当たらないのです。その結果、経験の浅い施設では細胞治療認定財団 (Foundation for the Accreditation of Cell Therapy / FACT) やその他の国際認証機関が定めた基準を理解し、適切に対応することが困難となっています。CAGTの分野では施設を対象にした基本レベルの教育と研修資料が必要です。理解しやすい資料を新しく作成するには、経験豊富な関係者に自身の知識と経験の共有を求めることになります。それは可能でしょうか?

CAGT治験の多くは、治験関連のあらゆる処置、評価、医療介入がその施設内で完結しているのが現状です。しかし、CAGTの研究を地域に根ざした拠点へと拡大するためには、手順の一部を外部の医療提供者に対応してもらう必要があります。たとえば、個人医院の治験担当医師の場合は、白血球アフェレーシスのために認定された血液バンクと協力したり、CAR-T細胞療法の処方に伴うサイトカイン放出症候群や神経毒性などの重篤な有害事象 (SAE) に対処するため、総合病院との提携が必要かもしれません。では、自院ですでにCAGT治験を実施している総合病院が、その地域の個人医院の治験実施施設に対し、患者さんの入院ケアサービスを快く引き受けてくれるでしょうか (競合しない治験の場合)?細胞療法の認定治療センター (ATC) は、治験参加者に快く入院ケアを提供してくれるでしょうか?こうした質問やその他の困難な問題に対する答えを見いだせなければ、地域に拠点を置く施設がCAGT治験を進展させることはできません。

私は治験依頼者や施設、CROが協力して新たな運用モデルについて議論し、これらの問題に取り組むことを提案します。より大きな利益を促進するための正式な協力体制がなくても、関係者の誰もが解決策の一端を担うことができます。

ここでは主に3つに分けられるステークホルダーのグループそれぞれが、今すぐ取れる重要な行動について取り上げます。

3つの主要なステークホルダーグループ

治験依頼者

プロトコルを簡素化し、コンフォートゾーンを抜け出す

CAGT治験のプロトコルの中には、施設におけるワークフローと生産性を著しく阻害しているものがあります。探求的エンドポイント、評価項目、遺伝学的検査が豊富な研究はリソースを圧迫します³。評価や検査の項目には必須のものもあれば、再評価の余地があるものもあります。現在大規模な学術センターでは、CAGTを含む多様な研究が競合し、利用できるリソースが少ないため、実施する治験の数を厳しく制限せざるをえません。パレクセルでは多くのリソースを必要とする治験は、疾患やリソース配置を担当する施設内審査チームによって拒否される傾向が強くなっていると認識しています。治験依頼者にとってはCAGT治験のプロトコルを簡素化することが、施設の負担を軽減する最も効果的な方法です。 

治験依頼者がリスクを厭うのも無理はありません。依頼者が安心して任せられると感じるのは、CAGTの豊富な実績があり、著名な治験責任医師が在籍し、スクリーニング訪問からアフェレーシス、SAEの管理に至るまで、治療のあらゆる要素に単一の契約で対応できる施設です。しかし、弊社はお客様に対して、治験依頼者が地域施設の使用の検討およびリスクとトレードオフの数値化をためらう理由を総合的に評価するよう助言しています。

弊社は多くの治験依頼者は慣れ親しんだ環境から抜け出し、CAGT治験施設の裾野を広げることで利益を得られると考えています。パンデミックに伴って医療従事者の「大量離職」が発生した際、地域密着型病院の多くでは、大規模な医療機関ほどスタッフが減らなかったことがわかりました。地域の医療施設は、患者さんの人生を変えるような、新たな可能性を秘めた治療が受けられるようになることを望んでいるため、CAGT治験の実施に強い期待を抱いています。CAGTに対応できる環境をより多くの地域に普及させることは、承認済みのCAGTの普及を支援することになります。また地域の診療所と治験責任医師は、より多くの人種的・民族的多様性を有する患者集団や、歴史的に十分なサービスを受けていない患者集団を募集できる可能性もあります⁴。

治験依頼者は治験を開始する前に施設の開発に投資する必要がありますが、それにはリソースと資本に加えて、ビジョンと規律も求められます。ですが、まずは小さな一歩から始めることもできます。たとえば、認証を受けるために必要な基準と能力を学ぶFACTワークショップに参加する施設に対し、治験依頼者がその費用を補償することを検討するのはどうでしょうか?進んでATCに連絡を取り、個人医院からの治験参加者に対して、入院サービスを支援するように促すのはどうでしょうか?病院や採血センター、その他の医療提供者にとって、これらのサービスがより経済的かつ魅力的なものとなるよう、試験的な予算を考案することが重要です。複数の地域研究センターをサポートするために、主要な地域病院システムや細胞採取センターと契約することもできます。

治験実施施設

リソースの配置を検討して、ギャップへの対処に着手

パレクセルでCAGT治験への参加を希望する地域密着型の医療機関と話し合う際に最大の障壁となるのは、患者さんの入院ケアの要件と細胞採取の手続きの複雑さです。多くの場合、こうした施設ではギャップ分析を綿密に実施してから、必要とされるサービスを外部委託するための選択肢を検討する必要があります。

その際には以下の点に注意する必要があります。

  • 入院患者に対応するために病院と既存の提携関係を結んでいるか?
  • 白血球アフェレーシスのための採血センターはあるか?
  • 術前治療や治験用CAGT製剤を投与するための輸液センターはあるか?
  • 機関バイオセーフティ委員会 (Institutional Biosafety Committee) の認証を取得しているか、または取得できるか?
  • FACTの認定を受けられるか?

施設は既存の治験依頼者およびCROとの関係を活用して、標準の事前適格性チェックリストを使用し、自らのCAGT治験の準備状況に関する正式な評価を依頼することができます。評価にはどの運用面でさらなる改善が必要かを特定する詳細な報告を含める必要があります。 

CRO

施設の支援、関係性の構築、コストの効率化を達成する

パレクセルでは、地域に根ざした研究センターとの関係を構築するCROは、治験の依頼者と参加者の双方に、より効果的なサービスを提供できると考えています。弊社はCAGT治験をすでに実施している非学術研究機関、特に新たな試験機会に対してより大きな能力を持つ研究機関を特定し、その能力と経験をプロファイリングすべく取り組んでいます。その知識により、治験依頼者の施設選定プロセスにおいて、ターゲットを絞った支援や助言を行うことができます。

CAGTに対応可能な施設数を継続的に増やすには、CROはこれらの治験を実施する意欲を持った地域の研究者を見つけ、彼らが運営や専門知識のギャップを埋める方法を特定する必要があります。このレベルの施設支援を実現するには、膨大なリソースと資本投資が必要です。地域との関係および地域に根ざした病院システムとの関係を構築すれば、複数地域の拠点で施設の監督や標準化を実施し、コスト効率化を図りながら、治験を実施することが可能になるかもしれません。

パレクセルでは治験依頼者と地域の施設間で直接意思の疎通を図るためのアドバイザリーグループを運営しています。私たちはどのようなサポートが必要で、両者にとってどのような運営モデルが実現可能であるかについて、透明性のある対話を促進することを目指しています。

  1. Brennan, Z. (2023) Thousands of gene and cell therapies are inundating FDA reviewers as the agency tries to keep up, endpts.com. Endpoints News. Available at: https://endpts.com/thousands-of-gene-and-cell-therapies-are-inundating-fda-reviewers-as-the-agency-tries-to-keep-up/ (Accessed: April 4, 2023).
  2. Rotenstein, L.S. et al. (2023) “The association of work overload with Burnout and intent to leave the job across the healthcare workforce during COVID-19,” Journal of General Internal Medicine [Preprint]. Available at: https://doi.org/10.1007/s11606-023-08153-z.
  3. “Rising Protocol Design Complexity Is Driving Rapid Growth in Clinical Trial Data Volume,” (2021) https://csdd.tufts.edu/ [Preprint]. Tufts Center for the Study of Drug Development. Available at: https://f.hubspotusercontent10.net/hubfs/9468915/TuftsCSDD_June2021/pdf/Rising+Protocol+Design+Complexity+is+Driving+Rapid+Growth+in+Clinical+Trial+Data+Volume++++++++++%20(1).pdf (Accessed: April 11, 2023).
  4. "Woodcock, J. et al. (2021) “Integrating research into community practice — toward increased diversity in clinical trials,” New England Journal of Medicine, 385(15), pp. 1351–1353. Available at: https://doi.org/10.1056/nejmp2107331.