細胞・遺伝子治療における段階に応じたコンプライアンス計画

By Siegfried Schmitt, Vice President, Technical PC

8 min

細胞・遺伝子治療における段階に応じたコンプライアンス計画

細胞・遺伝子治療 (CAGT) は、医療のアンメットニーズに応えるものであり、医療分野に革新をもたらす可能性を秘めています。しかし、科学は急速に進展しているため、規制当局はその技術革新の速度についていけず、患者さんの治療へのアクセスに影響を及ぼしています。元規制当局職員のLynne Ensorと業界専門家のSiegfried Schmittが、強固な品質戦略とコンプライアンス戦略を構築し、規制リスクを最小限に抑える方法について解説します。 

元FDA長官のScott Gottliebのよく知られた発言に、「現在のパイプラインとこれらの製品の臨床成功率を踏まえると、FDAは2025年までに年間10~20件の細胞・遺伝子治療製品を承認するだろうと予測している¹」というものがあります。業界は予測どおりの承認率にはまだ達していないものの (2022年にFDAは5件のCAGTを承認)、パイプラインは依然として拡大を続けており、現在FDAに承認されたCAGTは計27件に達し、臨床パイプラインには2,084件が進行中です²。

開発者側にもまだ学ぶべきことは多くあります。ここ数年、化学、製造、品質管理 (CMC) における失敗が注目を集めたことにより、規制当局と投資家の双方からCMCのコンプライアンス状況に対する監視が一層厳しくなっています。たとえば、Iovance社のリフィリューセル (黒色腫を対象としたTIL細胞療法) は、FDAとのタイプBミーティングの後、「当社とFDAは、BLA申請の一部として必要な力価試験に関するTIL療法の定義について合意に達することができなかった」という結論に至り、BLA申請は延期となりました³。

良いニュースもあります。それはデュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD) に対するSarepta社の遺伝子治療薬が、臨床での進行と承認に歯止めをかけてきた数々の挫折を乗り越えて、使用制限付きとはいえ、最近になってFDAの迅速承認を得られたことです。2020年9月にSarepta社は、FDAの組織・先進治療部 (OTAT) とのタイプCミーティング (書面による回答のみ) の後、リリースに向けて追加の力価試験を実施するように求められていたという経緯があります⁴。

これらの挫折は、CMCを遵守するための計画に積極的に取り組むことが、最終的な製品の成功に大きく関わってくることを物語っています。コンプライアンスを後回しにした場合、規制により計画に遅延が生じることが少なくありません。治療薬のパイプラインの拡大と規制当局のリソース不足によって、状況はさらに悪化します。そのため、回避可能なコンプライアンス上の不備により、開発後期に遅れが生じれば、余計なコストが発生するだけでなく、市場での先行優位性を失う結果にもなりかねません。

患者さんの安全性を確保し、製品開発を成功させるには、CAGT開発者が綿密な品質戦略とコンプライアンス戦略を取り入れることが極めて重要です。戦略の策定が製品開発の早い段階であればあるほど、スケジュールが繰延にならずに成功する可能性が高まり、同時に規制当局から承認を得るために必要なリソースを削減できます。

本記事では段階に応じたコンプライアンスの重要性を探るとともに、商用化に向けてCAGTの薬事規制の状況に対処する上で重要な考慮事項について説明します。

CMCを遵守するための計画に積極的に取り組むことは、最終的な製品の成功を大きく左右します。コンプライアンスを後回しにした場合、規制により計画に遅延が生じることが少なくありません。

コンプライアンス上の課題

CAGTコミュニティが直面するコンプライアンス上の課題には、できるだけ早期に対処しなければ、開発者にとって大幅な遅れの原因になるものがあります。

承認を受けたCAGT製品が少ないということは、製造および規制プロセスの両面において、さまざまな製品タイプにわたる経験が不足しているということです。CAGT独自の特徴と複雑な開発プロセスは、この比較的新しい分野ではほとんど前例がないため、開発の各段階で規制遵守を慎重に検討する必要があります。

このような経験不足から、治験を進めている中小企業には第I相から第III相、薬事承認、商用製品としての生産に至るまで、GxPへの準拠と品質システム要件に求められる水準が考慮されていないという傾向が少なからず見受けられます。このため開発者が承認前検査のために関係機関と接点を持つ後期の臨床段階で、品質とコンプライアンスに重大なギャップが生じます。さらにGMPへの準拠を医薬品製造受託機関 (CMO) や受託研究所の責任範囲と考える人もいますが、それは違います。

臨床開発の初期段階では、臨床データと転帰が重視されます。欠けているのは、コンプライアンスを確立するにあたって必要となるリソースに対する評価であり、そのためGLP/GCPからGMPへの品質システムの発展は軽視されがちです。その結果、開発者は規制当局の承認を受けるための準備を怠ってしまい、承認に至らなかったり、商用化が大幅に遅れたりすることになります。

さらには研究開発から商用製品の生産に至る各段階において、規制当局が何を期待しているかも十分に理解できていません。規制ミーティングの役割をしっかりと理解することで、開発者はその期待に応え、規制当局からのフィードバックや意見を得る機会を無駄なく活用できます。

承認を受けたCAGT製品が少ないということは、製造および規制プロセスの両面において、さまざまな製品タイプにわたる経験が不足しているということです。CAGT独自の特徴と複雑な開発プロセスは、この比較的新しい分野ではほとんど前例がないため、開発の各段階で規制遵守を慎重に検討する必要があります。

積極的な開発と早期の関与

コンプライアンスに関する最善の対処法、そしておそらく最も成功の見込みが高いのは、積極的なアプローチを取ることだというのが弊社の考えです。

早い段階からGMPへの準拠に取り組むことは、強靭なコンプライアンス戦略にとって不可欠です。最大の目的は、臨床バッチの特性およびパフォーマンスが商用規模のものと遜色ないことを保証することであり、その基盤となるのが適切な品質システムであり、品質の管理です。

品質システムと関連するコンプライアンスに対する期待を明確にするのに最適な時期は、第I相の開発の開始時点です。コンプライアンスを後回しにした場合、後手に回って問題解決に終始することになってしまいます。それでは製品の品質を確保し、規制による計画の遅れを防ぎ、商業的な優位性を生み出すどころではなくなります。

GMPに対応するには、製造や分析が必要な原材料、出発原料、中間体を特定し、開発段階のどの時点でどの文書がGMPに完全に準拠していなければならないかを知ること、さらには適切な管理によりデータの完全性とコンプライアンスを確保することが不可欠です。これはCAGTの開発だけでなく、適用される規制 (暗黙のものが多い) や規制上の期待に準拠した製造や試験にも当てはまります。

弊社には一企業として、このような人生を変える治療法をいち早く患者さんに届ける責任があります。この使命を達成するためには、段階に応じたコンプライアンスの確保が不可欠です。将来を見据えた理想的なコンプライアンス計画のためのガイダンスとして、以下のものをご紹介します。

  • 開発の初期段階から可能な限りGMPに近い製造環境を構築
  • 規制当局と早期に連携
  • 患者さんの治療に役立つ可能性があるとしても、品質とコンプライアンスを犠牲にしてはならない
  • 可能な限り原材料を管理
  • サプライヤーとの関係を明確にし、ベンダーとの強固な品質契約の策定および履行を含む、共有責任によるコンプライアンスの確立に向けた明確なロードマップを作成
  • 規制戦略と償還戦略は連携して進める
  • 科学者、規制当局の専門家、保険者、患者さんとの間でオープンなコミュニケーションと透明性を確立

規制当局はCAGT分野の進化に合わせて、継続的にガイドラインを改訂しています。そのため、コンプライアンス戦略を適宜適応させるには、新たに浮上する規制上の考慮事項に目を光らせておくことも重要です。主な検討事項には、先進医療医薬品 (ATMP) の進化し続ける枠組み、迅速承認や核心的な画期的治療薬指定などの新しい規制経路と有効性、製造方法および品質管理に関するガイドラインの変更などが挙げられます。

パズルの最後のピースは、集合的な専門性です。細胞・遺伝子治療の複雑な規制状況に対応するには、それぞれが独自の視点と専門性を有する多くのステークホルダーから協力を得る必要があります。開発プロセスのできるだけ早い段階で規制当局と関わることで、コンプライアンス戦略を軌道修正し、規制当局の審査を受けている間のやり取りを円滑に進められます。コンサルタント、コンプライアンスの専門家、または規制当局の専門家の知見を求めることで、コンプライアンスを確保し規制当局の承認を受けるための知識や経験も得られます。

GMPに対応するには、製造や分析が必要な原材料、出発原料、中間体を特定し、開発段階のどの時点でどの文書がGMPに完全に準拠していなければならないかを知ること、さらには適切な管理によりデータの完全性とコンプライアンスを確保することが不可欠です。

最後に

細胞・遺伝子治療製品の開発と商用化を成功させるには、段階に応じたコンプライアンスが重要です。積極的なコンプライアンス戦略を取り入れれば、開発者は規制状況に効果的に対応し、患者さんの安全を確保し、開発の各段階で規制要件を満たすことができます。早期のGMPアプローチや集合知の活用、専門家および規制当局との連携によって、臨床開発の前段階から薬事承認に至る治療法の各段階の進行を円滑にし、CAGTの分野を発展させ、人生を変えるような治療法を必要とする患者さんに届けることができます。

Contributing Expert

  1. https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/statement-fda-commissioner-scott-gottlieb-md-and-peter-marks-md-phd-director-center-biologics
  2. www.clinicaltrials.gov
  3. https://www.globenewswire.com/news-release/2020/10/05/2103814/0/en/Iovance-Biotherapeutics-Provides-Update-for-Lifileucel-in-Metastatic-Melanoma.html
  4. https://investorrelations.sarepta.com/news-releases/news-release-details/sarepta-therapeutics-provides-program-update-srp-9001-its