中国における細胞・遺伝子治療 (CAGT) の治験は、2つの独立したパスウェイで管理されています。一つのパスウェイは、国家衛生健康委員会 (NHC) が管理するもので、大学や学術研究病院において医師主導治験 (IIT) が実施されます。IITにおける倫理委員会の審査や現行の適正製造基準 (CGMP) の遵守要件は、省によって異なります。このパスウェイは商業化を目的としておらず、CAGTは「治療技術」として分類されます。IITの多くは初期段階およびファースト イン ヒューマン (FIH) 試験です。
もう一つのパスウェイは、CAGTを「医薬品」として扱い、国家薬品監督管理局 (NMPA) の管轄下で、新薬の承認を支援するためにデザインされています。この従来型のパスウェイは米国やEUと類似した枠組みで、通常、事前に規制当局と (対面、電話、電子メール、オンライン会議アプリなどで) やり取りを行い、治験薬 (IND) または治験申請 (CTA) を提出する治験依頼者の指針となります。治験が成功すれば、企業は販売申請を行うことができます。FDAやEMAと同様に、NMPAも化学、製造、品質管理 (CMC)、非臨床試験、CAGTの臨床要件などの基準を説明する複数の技術ガイダンス文書を発行しています。
2023年5月15日時点のclinicaltrials.govの検索によると、中国では1,000件以上のCAGT治験が開始されており、IITの数が (IND登録された) 企業主導治験の数をはるかに上回っています。 中国におけるCAGT治験の80パーセント以上が開発初期段階のものです。
治験数が多いということは、CAGT研究の実施経験がある治験責任医師や施設の基盤が拡大していることを示す一方、中国での治験を計画している外資系企業は、慎重にリスクを管理し、複雑で細かな配慮が求められる環境を乗り切る必要があります。たとえば、IIT治験はより柔軟性があり、安全性と有効性に関する貴重な情報を早期に得られる可能性があります。しかし、医薬品の臨床試験の実施に関する基準 (GCP) やCGMPを遵守していなければ、費用と時間のかかる手直しが必要になるかもしれません。上海のような大都市にあるトップクラスの治験実施施設の多くは、倫理審査、インフォームドコンセント、CGMP対応などを整えていますが、地域ごとの差異に注意を払う必要があります。ほとんどの治験依頼者にとって最も安全な経路は、開発期間を通じて規制当局の監視を受けるIND登録済みの治験だと言えます。
¹ 2023年5月15日、中国における幹細胞、CAR-T細胞、遺伝子治療の治験をclinicaltrials.govにて検索したところ、645件のCAR-T細胞試験 (IIT50%、初期段階90%)、937件の幹細胞試験 (IIT75%、初期段階80%)、576件の遺伝子治療試験 (IIT70%、初期段階85%以上) が確認されました。この分析におけるIIT治験とは、個人、大学、その他の組織など製薬企業以外によって実施されている治験を指します。
中国におけるCAGTの開発には、戦略的で柔軟なアプローチが不可欠
中国は未治療の患者数が多く、治験コストが低く、治験参加者の募集も迅速であることから、多くのバイオ医薬品企業にとって戦略的に重要な市場であり続けています。パレクセルは中国およびアジア太平洋地域で25年以上にわたり治験を実施しており、中国の医薬品規制制度が全面的に見直され、欧米と調和する過程を間近で見てきました。しかし、法的枠組みは進化し続けており、変化する規制を常に把握しておくことが成功の鍵となります。中国のCAGT開発者には、現在いくつかの課題があります。
- IITや研究機関で使用されているCAGTを治験用や商用製品として製造規模を拡大する際、確立された予測可能な技術的ソリューションの欠如は、米国や欧州と同様に、開発の障害となり得る。
- CAGT企業の経営陣は研究者であることが多く、CMC業務やCGMPコンプライアンスの複雑さや重要性を十分に理解していない場合がある。
- 中国に進出しているCAGT特化企業の多くは小規模な新興企業であり、健全なCMC投資のための十分な社内リソースや専門知識が不足している。
こうした課題にもかかわらず、中国で強い存在感を持つ企業、すなわち現地の病院や治験責任医師とつながりがあり、規制要件に精通し、文化的・言語的能力を十分に備えている企業は、適切な戦略でチャンスを活かすことができます。パレクセルは多くのお客様が中国におけるCAGT固有の規制上の考慮事項に対処し、グローバルに通用する臨床資料のデータを作成できるよう支援してきました。たとえば、最近ではCAR-T細胞治療で中国市場への参入を目指す国際的なバイオ医薬品会社のために、CMC管理戦略の技術要件を明確にしました。また、あるお客様に対しては、腫瘍溶解性ウイルス製剤を用いたファースト イン ヒューマン試験のCTAにおける、CMCの重要な考慮事項について助言を行いました。中国では規制に関するガイダンスが提供されなかったり、急速に変化することもあるため、十分な情報に基づいた開発戦略を立てることが非常に重要です。
Contributing Expert