新しいがん治療の治験実施施設を選定する際、多くの治験依頼者が最初に目を付けるのは主要な「学術研究センター」です。それらは認知度も高く、豊富な実績や著名な治験責任医師、優れたインフラストラクチャを備えているためです。しかし、大規模な学術センターでは競合研究が数多く行われており、人員やアセットが制約されるため、治験実施数が制限されています。またパレクセルでは労力のかかる治験は、施設内審査チームによって拒否される傾向が強くなっていると認識しています。この傾向は、がん治験が複雑化するにつれて特に顕著になっています。
オンコロジーにおける施設選定の従来のアプローチは、主要なセンターでのボトルネックや疲弊を生み出してきました。このアプローチでは、新たな可能性を秘めた治療法にアクセスできるのは、主要な学術センターがある大都市圏に移動する手段と能力のある患者さんだけに限られてしまいます。これは治験における地理、社会経済、人種多様性の制限につながっています。1
この問題の深刻化を食い止めるため、パレクセルは主要な学術センターの品質基準を維持しつつ、地域施設との関わりを強化しています。また、地域施設を効果的に支援して治験依頼者のリスクを軽減するために、以下の5つのベストプラクティスに従っています。
1. 施設のデータを正確に収集・整理
パレクセルは自社のサイトアライアンス オンコロジー ネットワークを通じて、オンコロジー施設の関心、地域、能力、患者集団、治験責任医師の包括的なプロファイル管理を維持しています。これにより、患者さんのニーズを満たす治験と適切な施設をマッチングさせることができます。プロトコルに適合していない施設に、無駄な実施可能性調査依頼を出して負担をかけることはありません。
施設から直接収集された最新データを活用することで、登録プロセスが迅速化します。たとえば、弊社は最近、がんのファーストライン治療の治験を実施する施設を選定しました。この治験は特定のバックボーン化学療法レジメンを受けている患者さんのサブセットを登録するものでした。このレジメンは標準治療とみなされていますが、多くの主要学術センターでは、新たに診断された患者さんに対して、これとは異なる治療アプローチが使用されています。そこで弊社は地域施設に目を向け、これまでに収集したデータから、プロトコルで規定されたレジメンを実施していて、なおかつ治験依頼者の期待を上回る治験参加者登録数が見込める地域施設を選定しました。
地域施設がプレシジョン オンコロジー治験に適しているかどうかは、治験デザイン、フェーズ、複雑さによって決まります。そしてプロトコルが改訂されると、その答えも変わります。先月弊社は、入院を必要としないがん治験の施設計画を最終決定しました。リストには多くの適切な地域施設が含まれていました。しかし、直前に起きたプロトコルの変更により、4泊の入院が必要となり、米国のほとんどの地域施設はこの要件を満たすことができませんでした。しかし、経験と整備されたデータベースのおかげで、私たちは施設の選定を迅速に修正することができました。
地域施設がプレシジョン オンコロジー治験に適しているかどうかは、治験デザイン、フェーズ、複雑さによって決まります。
施設選定をさらに強化するため、弊社の経験豊富なシニアアセッサーがオンコロジーネットワーク内のすべての施設を訪問し、がん治験実施に必要な包括的な構造化文書を編集します。その内容は非常に詳細です。たとえば、施設の温度別治験薬保管能力 (温度管理された室温、冷蔵庫、冷凍庫、窒素冷凍庫など) や保管温度監視システム (使用されるハードウェアやソフトウェアなど)、CTスキャナー、MRI、PET/CT、骨スキャナーなどの放射線機器のメーカーとモデル、およびそれらの校正頻度が記録され、施設の薬物動態と薬力学の能力、特定のがんや腫瘍の使用される標準治療、オンコロジー治験責任医師の研究優先事項の概要が記されます。また契約要件、患者償還システム、治験終了までの平均的な契約期間、過去のFDAフォーム483 (とその解決方法)、モニタリング訪問プロセス、電子カルテソフトウェアなどの詳細も記載されます。
最近ある治験依頼者から、オンサイトモニターが次回の訪問時に治験データにタイムリーにアクセスできないのではないかという相談がありました。弊社は施設評価記録を調べ、治験データへのアクセスとモニタリングに関する当該施設のプロセスとタイミングについて説明しました。治験依頼者は安堵し、オンサイトモニタリングは問題なく終了しました。当該施設の担当者から説明を聞く必要なく、状況を解決することができたのです。
2. 施設とのパートナーシップ
パレクセルは施設の声に耳を傾けて治験の負担や障壁を理解するために、時間とリソースを投資しています。パートナーとして敬意を持って施設に接しています。たとえば、よくある苦情の一つとして、データ入力のための複数のモバイルデバイスやデータベースの導入があります。新しいパスワードや使いにくいユーザーインターフェイスが多すぎると、治験スタッフはシステム管理に時間を奪われ、患者さんの治療に手が回らなくなります。そのため、弊社は各プロトコルで使用される新しいツールやテクノロジーの数を精査するようにしています。
弊社のネットワーク内の施設は、治験に求められるスキルセット、専門知識、サポート体制、インフラストラクチャを備えていることがすでに確認されています。そのため弊社では無駄な調査依頼の重複を避け、施設の管理上の負担を増やすことはありません。
治験依頼者が厳格な期限を遵守できるかどうかは、治験実施施設にかかっています。最近、ある治験依頼者が署名済みの契約書を24時間以内に提出するよう施設に要求しました。この治験は複雑ながん治験であったため、この期限は実現不可能でした。弊社は仲介役として治験依頼者に制約について説明し、施設と協力してプロセスを円滑化しました。弊社が治験依頼者に追加の選択肢を提案したことで、契約書への署名は予定されていた施設開始訪問 (SIV) 日より前に完了し、当該施設は開始目標を達成できました。
早期のオンコロジー用量漸増試験は、最初の治験参加者登録 (FPI) によって推進されますが、これは施設立ち上げサイクルに左右されます。そのため弊社は、治験立ち上げの合理化に焦点を当てています。施設プロファイリング文書が事前に用意されているため、意思決定に時間はかかりません。答えはすでにわかっており、施設を再訪問したり、詳細情報を要求したりする必要はありません。
3. トレーニングの負担軽減
規制、臨床、データ、倫理の各要件に従って治験を実施するため、施設のトレーニングは重要ですが、それらはまだ完璧とはいえません。多くの施設は必須トレーニングの中には反復的で関連性のない事項もあり、時間がかかると感じています。なぜなら、施設トレーニングの従来のアプローチでは、臨床研究の目的からデータ収集の基礎まで、あらゆるトピックが網羅されているからです。これを修了しないと、治験固有のトレーニングには進めません。どのプロトコルも、その施設にとって初見であるかのように扱われます。
CROと治験依頼者は、年功、経験、背景、適格性を考慮して施設トレーニングをカスタマイズする必要があります。たとえば、登録看護師と医師については、心電計などの医療処置のトレーニングを免除できます。施設スタッフに対し、不必要なトレーニング項目に参加する代わりに、該当の処置に関する知識を有していることを証する書面に署名して提出してもらう場合もあります。また、トレーニング資料作成の際に施設スタッフの意見を取り入れることで、より緻密な計画を練ることができます。
多くの施設は必須トレーニングの中には反復的で関連性のない事項もあり、時間がかかると感じています。CROと治験依頼者は、年功、経験、背景、適格性を考慮して施設トレーニングをカスタマイズする必要があります。
4. 施設を支援
オンコロジー治験は複雑であり、患者さんの不安も強まります。そのためパレクセルは、治験実施施設のサポートにきめ細かな配慮をしています。弊社の治験専門家は全員オンコロジーの経歴を持ち、この分野に熱意を持って取り組んでいます。愛する人をがんで失った人、がんを克服した経験のある人も多数います。チームメンバーは「肉親にこの治験に参加するよう求めるか?」と自問するよう教えられています。その答えが「いいえ」なら、患者さんの負担を軽減する方法を探ります。
弊社は各施設の患者ニーズに合致する治験に当該施設が割り当てられ、患者さんにより多くの治療選択肢を提供できるように全力を尽くしています。詳細なデータに基づき、施設の要望がかなうように支援しています。施設は24時間365日いつでも、タイムゾーンを問わず、弊社に問い合わせることができます。弊社は治験依頼者へのエスカレーション窓口であり、施設へのサポートを常時提供します。
治験実施施設の選定や地域施設を含めるかどうかについては、常に治験依頼者が最終決定権を持ちます。しかし、治験依頼者とCROがデューデリジェンス、継続的なサポート、迅速かつ効果的なトラブルシューティングを通じてリスクを管理していれば、地域施設は治験参加者の募集と登録を促進し、患者さんのアクセスを拡大できます。
治験実施施設の選定や地域施設を含めるかどうかについては、常に治験依頼者が最終決定権を持ちます。しかし、治験依頼者とCROがデューデリジェンス、継続的なサポート、迅速かつ効果的なトラブルシューティングを通じてリスクを管理していれば、地域施設は治験参加者の募集と登録を促進し、患者さんのアクセスを拡大できます。
5. 公正かつ期日どおりの報酬の支払い
今日、治験に参加する施設にとって最大の問題の一つは、期日どおりに報酬を受け取れるかどうかです。最近の調査によると、82%の施設が報酬の支払い遅延によって悪影響を受けています。2
この問題はオンコロジーにおいて特に深刻です。がん治験の実施施設には、治験への長期間の関与が求められます。進行中の治験フェーズは3~5年続く場合があり、安全性フォローアップ訪問は10年以上に及ぶこともあります。用量漸増フェーズからピボタル有効性フェーズに移行する複雑でシームレスなプロトコルは、最初から最後まで多くのリソースと労力を必要とします。治験の終了後、さらには医薬品の上市後も、安全性データを収集しなければならないこともよくあります。
報酬の支払いが遅れると、施設の不満が募ります。パレクセルには契約と報酬支払いを扱う専任チームがあります。各治験に割り当てられた連絡担当者が支払いの滞納を処理し、施設の財務問題を解決します。
治験依頼者はプロトコルの複雑さを考慮して、施設で実施される作業に対して十分な報酬を与える必要があります。たとえば、多くの治験依頼者は原資料のリモート検証を導入したがります。しかし、これには新しいソフトウェアの操作方法の習得、ライセンスの取得、データプライバシーの確保などが必要となります。そのため、弊社は治験依頼者に、原資料のリモート検証は施設にとってオンサイト訪問の準備よりも初期費用が高くなり、初期に費やす時間も長くなるとアドバイスしています。リモートモニタリングはこの投資に見合う価値があるかもしれませんが、治験依頼者はこの初期費用を理解する必要があります。弊社は、各プロトコルの負担の特性を正確に評価することで、施設を擁護しています。
インフレ、リモートモニタリング、次世代シーケンシング検査、センサーやウェアラブルの管理は、施設の治験費用を押し上げる要因のほんの一部にすぎません。適応症が進行がんの場合、施設スタッフが患者さんの適格性を判断するために、複数の前治療レジメン (最大4~5種類) を類型化して文書化しなければならないことも多々あります。施設が治験に継続的に参加できるようにするには、治験に必要な労力とリソースを施設への報酬に適切に反映させる必要があります。
地域施設の治験参加により、プレシジョン オンコロジーの発展は加速します
オンコロジー治験 (その多くは探索的エンドポイント、画像評価、遺伝子検査を伴う) の数と複雑さが増すにつれて、従来の治験インフラは限界に近づいています。3 地域施設は患者さんのLife (生命・生活) を変える可能性のある治療法にアクセスできるようにするため、プレシジョン オンコロジー治験への参加を切望しています。治験がより身近なものになれば、患者さんは最先端の治療を受ける機会を得られます。治験依頼者も登録期間の短縮、患者集団の多様化、高品質な治験データというメリットを享受できます。
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