スクリーニングから登録まで:プレシジョン オンコロジーにおけるスタートアップの確立

By Gwyn Bebb, M.D., BM, BCh, Ph.D., Franchise Head, Oncology
Csilla Szalay, Senior Feasibility & Strategy Leader
Laura Cerny, Senior Director of Launch Excellence

Published on: Jul 24, 2025

6 min

プレシジョン オンコロジー試験は、患者さんが正確な分子プロファイルのためのスクリーニングを受ける必要があるため、試験立ち上げ段階に特有の課題に直面します。適格性の判断には、通常、高度な遺伝子検査と画像検査が必要です。したがって、登録には長いリードタイムが生じる可能性があり、治験依頼者は開発期限に間に合うように問題を早期に予測して解決する必要があります。治験依頼者が直面する3つの課題と、それらを克服する方法についてご説明します。

1. 地域によって異なる遺伝子検査の能力と規制

遺伝子検査のインフラは国、州、機関によって異なります。分子検査に次世代シーケンス解析 (NGS) を用いる施設があったり、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) 技術を用いる施設があったりします。これらのアッセイの分析的検証のレベルは一定ではありません。グローバル治験を実施する治験依頼者は、検査の遅延や誤りによる登録の遅延を避けるため、ばらつきを補う必要があります。 

パレクセルでは、何百件ものプレシジョン オンコロジー試験から収集した多数の国々や機関のゲノム検査、費用、保険適用範囲、および利用状況に関する詳細な知識を蓄えています。タイムリーに登録が進められるかは、特定の検査に精通しており、効率的に実施できるベンダーの選定にかかっています。ゲノム検査はがんの種類ごとに異なるため、治験依頼者は施設に対して、バイオマーカー陽性の患者さんを特定するための明確な適応症別ワークフローを提供する必要があります。

このためには規制フレームワークに精通した知識が必須です。たとえばEUの免疫組織化学的検査 (IHC) は、治験で使用する前に検証および承認を受けなければなりません。米国ではFDAがIHCアッセイを体外診断用 (IVD) 医療機器に分類しており、治験前機器の使用によっては、治験前機器適用除外 (pre-IDE:pre-investigational device exemption) が要求される場合があります。 

FDAはコンパニオン診断検査 (CDx) を用いない数種のプレシジョン オンコロジー医薬品を承認していますが、その代わりに市販後のアッセイ開発を要求しています。しかし、アッセイが不足すると、市場への普及、患者さんの安全性、利用しやすさに悪影響を及ぼす可能性があります 1。新規バイオマーカー検査を開発するには、研究グレードのアッセイから臨床グレードのアッセイへの移行が治験依頼者に求められることがよくあります。これは新しいバイオマーカー用に検証された診断検査が存在せず、陽性の場合の有病率と予後への影響に関する知識が限られているため、多分野にわたる課題となります。

パレクセルはバイオマーカーの要否を判断するために、早期に探索的試験を実施するよう治験依頼者に助言しています。理想的には第II相までに、患者さんを層別化するためにCDxが必要かどうか、またはオールカマー試験で有効性を評価できるかどうかを明確にしておく必要があります。統計モデリングは最適な戦略を特定するのに役立ちます。第III相までに検証済みの臨床グレードの選択ツールを確立する必要があります。

EUの体外診断用医療機器規則 (IVDR) の複雑さによって、臨床開発と同時に診断検査の開発を開始することが治験依頼者に求められています。パレクセルではIVDRプロセスによって、14種類の新規バイオマーカー検査の検証を治験依頼者が行えるように支援し、新規標的治療の被験者選択と承認を迅速化しています。

2. 十分な準備と専門家が不可欠な放射性医薬品臨床試験

放射性医薬品はモノクローナル抗体を用いて、がん細胞の特異的なタンパク質を標的とし、細胞を死滅させる放射性同位体を送達します。第1世代の製品は、治療を取り扱うためのインフラと専門知識が不足していたため、商業的な面で苦戦を強いられました。しかし、第2世代の製品になると、標準治療と放射性同位体の安定性が向上したため、商業的な成功を収めました。このため、放射性医薬品やセラノスティクス (診断用と治療用の要素を組み合わせたもの) への関心が高まっています 2

放射性医薬品の開発は運用面の複雑さがまだ残されていて、規制の現状に関する詳細な知識、先を見越した計画、核医学の能力と経験を兼ね備えた施設が必要となります。セラノスティクススキャン検査および治療手順は、施設でのオンコロジー領域の標準的な診療には通常含まれていません。核物理学者は、原子崩壊プロセス、安全な放射線照射、患者さんおよびスタッフの放射線被曝を最小限に抑える方法を理解しているため、患者ケアの過程に加わる必要があります。セラノスティクスキャン検査では、スクリーニング脱落率が想定よりも高くなることがあるため、治験依頼者はそれを補える追加の施設を特定しておく必要があります。 

試験のデザインと調整では、治験薬製造のプロセスと取り扱いに関する要件を詳細に理解することが要求されます。施設は特定の同位体に関して放射線委員会から適切な認定と承認を得て、放射性物質 (RAM) の免許を取得する必要があります。この治験薬は参加者に固有のものであり、スクリーニング後に出荷されます。適切な治療を適時な患者さんに適切なタイミングで提供されるように、治験薬の製造時期と出荷時期を登録患者さんの訪問スケジュールに一致させる必要があります。

パレクセルではここ数年、第I相から第III相まで20件の放射性医薬品の治験を実施してきました。弊社は綿密な施設選定 (PETスキャナー、放射線治療設備、放射性リガンドの取り扱い、管理、廃棄の経験が不可欠な能力となります)、患者さん中心の試験デザイン、施設の徹底した取り組み (放射性医薬品に関するトレーニングおよび教育を含む)、厳重なサプライチェーン管理 (放射性同位体の供給途絶に対する危機管理計画を含む)、核医学専門医、腫瘍医、放射化学者、医学物理士、治験スタッフ間の緊密な連携を重視しています。 

私たちは近年新設した専門職であるローンチ エクセレンス リード (LEL) を実施するすべてのプレシジョン オンコロジー試験に割り当てます。LELは過去の治験から得られた教訓を活かして、試験のデザインと実施を最適化します。これにはプレシジョン オンコロジーのデータベースへのアクセスが含まれ、登録成績、開始サイクル、規制当局承認委員会の構成に関する施設固有の履歴データが格納されています。

3. グローバルな拠点の展開と徹底した施設トレーニングが求められるプレシジョン バイオシミラー試験

プレシジョン バイオシミラーは、基準となるバイオ医薬品と同等であることを実証するために、第III相試験で評価する必要があります。しかし、これらの治験で本来の分子が幅広く入手することができる欧米諸国からの患者さんの登録は難しさを増しています。したがって、基準となる製品へのアクセスが制限されているマレーシア、タイ、トルコ、モルドバ、メキシコなどの国で試験を実施する必要があります。同等性試験により、通常なら受けることができなかった高度な治療の機会を患者さんに提供します。

企業は経験やインフラの足りない国や機関で治験を実施する際に、データ品質が損なわれないよう予防策を講じる必要があります。たとえば欧米諸国では、がん治験の適格性を判断するために、米国東海岸癌臨床試験グループ (ECOG) による活動能力検査を実施するのが一般的です。ECOGパフォーマンススコアの範囲は0 (正常) から5 (死亡) であり、生存率との強い相関を示します。ECOGステータスが0または1 (3ヵ月以上の余命を示す) であることが一般的な適格性要件です。その他の国では主観的判断を必要とする検査は、日常的には実施されていないことがよくあります。ECOGスコアが2以上の患者さんを誤って登録すると、バイオシミラーに起因する超過死亡が生じる可能性があります。そのため、パレクセルは施設と積極的に連携し、ECOGスケールを用いて患者さんの機能面をスコア化する際の治験責任医師および施設スタッフのトレーニングを徹底しています。

弊社は最近、新興の臨床研究施設が直面する課題の解決を支援し、その成功を後押しするため、メンターシップ、インフラ支援、および指導を提供する奨学金プログラムを立ち上げました。遺伝子検査の基準が最適でない国では、治験依頼者は分子の厳密な適格基準を満たす患者さんを確保するために、新規または追加の検査リソースに資金を費やす必要があります。また、現地の専門知識水準が低い場合、治験依頼者は早めに行動して施設を必要な水準まで引き上げ、試験全体を通じてトレーニングを持続する必要があります。

パレクセルは現在、高頻度の固形腫瘍の適応症を治療するバイオシミラーの大規模な第III相試験を実施しています。この試験では、ALK、BRAF、KRASなど、多数のバイオマーカーが認められる患者さんを除外する必要があります。そのため、これらのバイオマーカーが多くの患者さんに認められても、腫瘍の遺伝子プロファイルに対する検査が行われていないため、追加の検査レイヤーが必要となり、スクリーニング脱落率が上昇します。プロセス効率は極めて重要であり、検査に遅れが生じれば、疾患進行によって適格な患者さんが除外されてしまう可能性があります。そのため、パレクセルは計画段階において、各国および各地域の治験責任医師と施設に働きかける現地の専門家を定めました。そして治験責任医師への定期的な個人面談や追加の会議、交流を含む取り組みにより、多様な施設を一貫して迅速に連携させることに成功しました。

プレシジョンオンコロジー試験のローンチエクセレンスには、早期の連携、積極的な計画立案、課題に事前に対処する意欲と能力が必要です。

Contributing Expert