ステージ4のがんを克服し、超希少疾患を持つ子どもの母親でもある、パレクセルのチーフ ペイシェント オフィサー Stacy Hurtは、治験依頼者と協力して医薬品開発の初期段階から患者さんのコンサルティングを行い、その声に耳を傾けています。彼女はアンメットニーズの特性評価や、治験実施計画書のデザインから重要なアウトカムの定義まで、製品開発における意思決定のあらゆる側面において患者さんが極めて重要であると考えています。
患者さんはプレシジョン メディシン (がん個別化医療) の最終的なエンドユーザーであり、投資家、バイオ医薬品企業、医療提供者、規制当局、医療技術評価機関、保険者ではありません。今日のがん臨床研究環境において、患者さんはがん遺伝子プロファイリング検査に公平にアクセスできません。検査結果を受け取ってそれを活用する方法をカスタマイズすることはできず、自身に適した治験があるかどうかもすぐには見つけられません。
このデータを民主化しない限り、すなわちこのデータが必要なときに必要な患者さんに提供されない限り、患者さんも社会もプレシジョン オンコロジーの恩恵を受けることはできません。ここでは私たちが行うべき3つのことを取り上げます。
1. 患者さんに遺伝子検査への公平なアクセスを保証
遺伝子検査はプレシジョン オンコロジーの出発点です。遺伝子検査がなければ、患者さんは個別化されたがん治療を受けることができません。しかし、最近の研究によると、がん患者さんのうち生殖細胞系列検査を受ける人の割合はわずか6.8%で、アジア系、黒人系、ヒスパニック系の患者さんに限るとその割合はさらに低いことがわかっています。¹ 現在、個人の疾患リスクの予測に使用されているゲノムデータの90%はヨーロッパ系の人に由来するものであり、ヨーロッパ系以外の人にとっては正確ではない可能性があります。²
理想的な状況下でも検査の実施は一様ではありません。私は親友のJimを大腸がんで亡くしました。Jimと面会したとき、私は担当していた腫瘍医 (米国の主要学術研究センター勤務) にJimのバイオマーカー検査の結果を尋ねました。医師は検査したところでその結果には「対処できない」のだから「検査は必要ない」と説明しました。当時のJimの病状はステージ3でした。バイオマーカーデータがなければ、Jimがいずれかの治験に適格かどうかさえ判断できません。
この腫瘍医の仮定には欠陥があります。なぜなら、プレシジョン オンコロジーの科学は急速に進歩しているからです。2017~2022年の間に「臨床的に対処可能な」腫瘍の割合は、8.9%から31.6%に増加しました。³ 新しいクラスの標的薬を導入する際の大きな課題は、変異の有病率がわからないことです。たとえそれが一人ひとりの臨床経過を変えるものではないとしても、現実のアウトカムと相関する広範なDNA配列検査は、今後の治療にとって有益なインサイトをもたらす可能性があります。⁴
2. 患者さんが自身の希望する健康データを利用可能にする
2021年に米国保健福祉省(HHS)は、患者さんが自身の医療記録や検査結果に「遅滞なく」アクセスできるようにする21世紀治療法 (21st Century Cures Act)の条項の施行を開始しました。⁵ 患者さんは医療提供者と話し合う前に、遺伝子検査データを受け取ることができます。
この動きは論争を巻き起こしました。米国医師会は多くの患者さん (65%) が「人生を変える」検査結果が出る前に医師と話をすることを望んでいると主張していますが6、別の調査では回答者の95%が、たとえ結果が「異常」であっても、患者ポータルを通じてすぐに検査結果を受け取りたいと回答しました。⁷
ほとんどの患者さんは、数十 (または数百) の遺伝子を対象とした、CDKN2A、PTEN、BAP1などの略語が含まれる大規模なパネル検査の結果を解釈できません。検査結果が出るまで待ってから担当医師や腫瘍医と話し合いたい人もいれば、フィルターのかかっていない生の結果をすぐに知りたい人もいます。多くの患者さんは依然として、治療の選択肢について腫瘍医と話し合うために自身の長期的な健康記録を入手することはできません。
がん検査の結果やその他の健康記録の公開に対して患者さん中心のアプローチをとれば、患者さんは電子患者ポータルを通じて好きなときに好きな方法でそれらを受け取ることができます。弊社にはこのプロセスを個々の患者さんに適応させる技術があります。
3. 治験の検索可能なデータベースを提供
たとえ遺伝子検査の結果を知らされたとしても、新たにがんと診断された患者さんとそのご家族にとって、プレシジョン オンコロジー試験の状況は複雑で混沌としています。標的療法を対象とした何百もの治験を逐一把握する時間のある腫瘍医はほとんどおらず、多くの場合、患者さんは独力で治験を探すしかありません。
夫が扁平上皮がんで死に瀕している救急医のBess Stillmanさんが執筆した痛ましい3部作の記事は、がん治験インフラの「破綻、不明瞭性、複雑性」という現実を読者に突きつけます。8,9 彼女は「なぜ私たちは科学の進歩を可能にする患者さんにひどい仕打ちをするのでしょうか?」と問いかけます。
夫の診断後、Stillmanさんは、「EMRデータを使用して患者さんと治験をマッチングし、現在どの施設で治験参加者を募集しているかを医師が確認できる、検索可能なリアルタイムのデータベース」が必要だと感じました。10 デフォルトの治験情報リポジトリであるclinicaltrials.govでは、データ入力が標準的でなく更新頻度も低いため、治験の絞り込みや選別を効率的に行うことはできませんでした。
疾患の進行は治験への参加資格に影響するため、治験を見つけるのにかかる時間は、患者さんにとって生死に関わる問題となる可能性があります。パレクセルは
clinicaltrials.govの入力フィールドを標準化するデータサイエンスの専門知識を持っており、その更新頻度を高めることができます。効率的な中央データベースがあれば、患者さん、腫瘍医、治験実施施設、治験依頼者のいずれにも役立ちます。こうしたものは、遥か以前に確立していなければならないものです。
本当に患者さん中心のプレシジョン オンコロジーを実現するには、従来の枠組みを根本から変革する必要があります。
私はすべてのがん患者が診断後数日または数週間以内に、以下を得られるプレシジョン オンコロジー臨床研究の世界を思い描いています。
- 自身のがんの遺伝的および代謝フットプリントに関する正確なデータ
- 自身の長期的な健康記録のポータブル版
- 自身の長期的な健康記録のポータブル版
- 迅速かつ (可能であれば) リモートでの適格性スクリーニング
- 治験に参加するための交通費の払い戻しやその他の支援
- 治療の選択肢について共同で意思決定できるようにする、医療チームとの信頼関係
現在の治療パスウェイに実用的な改善をいくつか加えれば、このビジョンを実現し、緊急性を要するニーズに応え、患者さんの力になることができます。
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