2021年に開始されたFDAのプロジェクト オプティマスは、数十年にわたりオンコロジー医薬品開発の主流だった治験デザインと用量の仮定を一変させました (表1)。FDAはより多くの時間と費用をかけて用量-反応および曝露-反応の包括的データを収集し、効果的かつ安全で生活の質の改善につながるがん治療薬を実現することで、患者さんに利益をもたらすことができると期待しています。また新しいがん治療薬のベネフィット リスク プロファイルの定義をより正確に定義することは、治験依頼者の利益にもつながります。最近の研究では、患者さんを低用量のプレシジョン オンコロジー治療薬で短期間治療した場合、副作用が軽減し、治療をより長期間継続できるようになることで、最終的に治療効果の向上につながることがわかっています。1
小規模バイオテクノロジー企業が直面している課題である「パーフェクトストーム」
広範な用量最適化を行うには、治験参加者登録数を増やしてより多くのデータを収集し、より徹底的な解析を実施して、初期段階のオンコロジー試験により多くの時間とリソースを費やす必要があります。これは資金と社内の専門家が限られている小規模なバイオテクノロジー企業にとっては、困難な課題となり得ます。2022年と2023年に新興企業は、用量最適化要件の増加、インフレ、高金利という「パーフェクトストーム」に直面しました。
しかし、小規模バイオテクノロジー企業はプレシジョン オンコロジーにおいて重要な役割を果たしており、2010~2020年にFDAが承認したファースト イン クラスのがん治療薬の46%を生み出しています。2 パレクセルは包括的で規制に準拠した用量最適化を業務上の制約の枠内で実現するため、治験依頼者と協力して薬事戦略の開発にあたっています。その取り組みの中で以下の3つの効果的な戦略を見出しました。
1. 統合型ヒト初回投与試験のデザイン
弊社は治験依頼者に対して、各段階で不確実性を体系的に排除することによってリスクを軽減する統合的なヒト初回投与試験デザインを使用するようアドバイスしています。
弊社は治験依頼者に対して、各段階で不確実性を体系的に排除することによってリスクを軽減する統合的なヒト初回投与試験デザインを使用するようアドバイスしています。
弊社は最近、投資家に速やかに進捗状況を示して次の資金調達ラウンドを獲得するためにシンプルな用量漸増試験を実施したいと考えている小規模バイオテクノロジー企業と出会いました。同社は単一のプロトコルで用量漸増、最適化、拡大のすべてに対応するアダプティブ第I~II相試験をデザインするのは複雑で時間がかかりすぎると感じていました。しかし、これは短絡的な考えでした。なぜなら、治験審査委員会 (IRB)および倫理委員会の承認を得て施設を有効化するために第Ia相用量漸増試験の計画を提出し、その後第Ib相用量最適化試験のために同じプロセスを繰り返すのは非効率的だからです。その代わりに、このプロセスを1回だけにとどめるシームレスなデザインを追求する方が得策といえます。数ヵ月かけて堅牢で柔軟性があり、データ豊富なアダプティブ第I/II相試験をデザインすれば、結果的に全体の開発期間の短縮につながります。またシームレスな試験の各パートの間でいつでも立ち止まり、投資家や共同開発パートナーを探すこともできます。
数ヵ月かけて堅牢で柔軟性があり、データ豊富なアダプティブ第I/II相試験をデザインすれば、結果的に全体の開発期間の短縮につながります。またシームレスな試験の各パートの間でいつでも立ち止まり、投資家や共同開発パートナーを探すこともできます。
統合的なFIH試験には以下の3つの段階が含まれます。
用量漸増:プロジェクト オプティマス以前は、用量漸増の目標は最大耐用量 (MTD) を見つけることでした。現在の目標は、次のステップで最適化を図る有効用量の範囲を見つけることです。最初の用量漸増フェーズでは、事前に規定した一連の用量に治験参加者を登録します。これには前臨床毒性などのデータを基にした開始用量、漸増スキーム、目標用量、最大用量が含まれます。多くの企業はこの段階で従来の毒性ベースの3x3形式を使用して、安全性、有効性、薬物動態 (PK)、薬力学 (PD) データを収集します。しかし弊社は入手可能な非臨床データとモデリング手法を活用し、有効用量の範囲を決定する柔軟性の高い試験デザインを探求することを提言します。
安全性が確立されたら、抗がん作用の早期シグナルを検出するために、さまざまな疾患進行段階にある最大10例の治験参加者を各有効用量候補コホートにバックフィルすることを推奨します。バックフィル戦略では、事前に規定した全奏効率 (ORR) によって有効用量範囲の下限を決定できます。上限はMTDまたはPK/PDモデリングとシミュレーションによって決定できます
用量最適化:用量最適化フェーズでは、少なくとも2つの用量を選択する必要があります。非盲検交互割り付けを使用する代わりに、FDAガイドラインに従って治験参加者を各用量群に無作為に割り付けることを推奨します。無作為化により、群間に系統的バイアスが生じる可能性が減少します。系統的バイアスがあると、結果が解釈不能になる可能性があります。これを聞くと驚く治験依頼者もいますが、FDAは無作為化用量設定段階のサンプルサイズとして群あたり20~40例を期待しています。また第II相推奨用量 (RP2D) として使用する用量を決定するために、無益性と反応の基準も設定する必要があります。
無作為化用量設定試験の患者集団は、比較的均一にする必要があります。漸増段階からの非臨床所見、疫学、臨床アウトカム (PK、PD、安全性、抗がん活性など) を集約して、今後の試験の用量レベルを決定できます。
用量拡大:この第I/II相試験の最後のフェーズは、強固なデータを持つ治験依頼者に、画期的治療薬指定 (BTD) または迅速承認 (AA) に向けてコホートを拡大する機会を提供します。
2. 各段階でFDAの同意を得る
2023年1月、FDAのオンコロジー センター オブ エクセレンスは、オンコロジー医薬品の用量最適化に関するガイダンス草案を発表しました。3 治験前新薬申請 (pre-IND) や Initial Targeted Engagement for Regulatory Advice on CBER/CDER producTs (INTERACT) ミーティングなどのマイルストーンミーティングは、治験依頼者が活用すべき貴重な機会です。ただし、シームレスな試験の各段階で用量設定戦略のリスクを回避するには、これら以外にもFDAとのミーティングを開く必要があります。FDAは、用量設定戦略に関する議論をマイルストーンミーティングに結び付ける必要はないと明言しています。場合によっては、臨床データが入手可能になったときに別途ミーティングが必要になることがあります。
弊社は、前臨床試験のすべてのデータと統合試験の用量漸増パートの臨床データを解析してから無作為化用量設定試験をデザインし、その試験を開始する前にFDAとのミーティングを開くようクライアントにアドバイスしています。用量最適化計画を正当化するには、以下の内容を含む完全なデータパッケージを提示する必要があります。
- 今後の試験のために有効用量範囲の上限と下限をどのように特定したか、当該試験の提案された無作為化用量設定パートのデザイン (患者集団とサンプルサイズを含む)、および副作用と特定の集団のために用量をどのように変更するかをまとめた要約。
- 用量-反応関係または曝露-反応関係の予備的理解の基礎となるすべての非臨床および臨床データ (安全性および忍容性、抗腫瘍活性または有効性、PKおよびPDデータ)。
- 関係のモデルまたはシミュレーション (新しいデータに応じて修正可能なもの)。
このミーティングの目的は、最適化と今後の治験のための用量についてFDA審査チームの同意を得ることです。無作為化用量最適化が完了したら、新たなデータによる統合的な用量-曝露-反応解析を基にしたRP2Dの決定について同意を得るために、再度FDAとミーティングを開くことをお勧めします。
3. 完全な論理的根拠に基づいたガイドラインの攻略
弊社は最近、有望なプレシジョン オンコロジー治療薬を開発している新興企業に対し、プロジェクト オプティマスのガイドラインでは用量最適化のため各群に少なくとも20例の治験参加者を登録する必要があるとアドバイスしました。同社にそのような試験に投入する資金はなく、対象疾患では治験参加者の獲得競争が熾烈でした。その一方で同社の治療法は、漸増中に試験したどの用量レベルでも安全性シグナルを示しませんでした。このようなケースでは、最適化群に40例の治験参加者を追加登録するのではなく、漸増パートの用量レベルのうち2つに5例または10例の治験参加者をバックフィルするという方法を規制当局に提示することをお勧めします。有望性の高い用量の安全性プロファイルの特性をより的確に把握し、規制当局にいずれか1つの用量を選択して直接用量拡大段階に進む許可を求める方が得策です。
規制ガイドラインは法律ではなく、開発に関する意思決定は治験依頼者の責任となります。ガイドラインからの逸脱を科学的エビデンスによって正当化できる場合、治験依頼者は証拠を挙げて自らの主張の正しさを説明する必要があります。たとえば、プロジェクト オプティマスの結果の一つとして、治験参加者の需要が増加したことから、用量最適化群に多数の治験参加者を登録するのにますます時間がかかり、登録が困難になっていることが挙げられます。同じ遺伝子変異または遺伝経路を標的とする複数の製品の治験依頼者が同じ治験参加者プールの登録を競っている状況では、募集は特に問題となります。FDAはこの問題を把握しており、場合によってはその対応を支援することがあります。
効果的な戦略を立て、説得力のある議論を繰り広げるには、規制当局の姿勢から傾向や優先事項を読み取ることが重要です。
見直されるオンコロジーにおける用量設定の重要性
第II相の投与戦略を正当化する十分なデータが得られない治験依頼者は、開発中の治験差し止めや追加の第II相試験の実施要求、FDAによる販売申請審査中の申請拒否 (RTF) の決定や審査完了 (CR) 報告通知など、大幅な遅延に直面する可能性があります。最適用量を早期かつ適切に見つけることは、安全性を向上させ、場合によっては開発期間の短縮や開発費用の削減につながる可能性があります。初期段階の試験にアダプティブデザインとMIDD (モデルを活かした医薬品開発) アプローチを使用し、規制当局との早期のやり取りの優先順位を高くすれば、規制当局の承認がよりスムーズになり、市販後の要件が減少して、償還が迅速になります。
表1. プロジェクト オプティマスがもたらしたがん治療薬開発における優先事項の変化
以前の枠組み
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プロジェクト オプティマスの枠組み
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Pre-INDミーティングは形式的
第I相試験をできるだけ早く開始。対面でのINDミーティングは不要。
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Pre-INDミーティングは必須
INDミーティングにおいて、用量設定戦略を含む全体的な医薬品開発計画の堅牢性を評価。
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第II相の終了時 (EOP2) にFDAとミーティング
第II相推奨用量 (RP2D) を決定してから、第II相試験を行います。EOP2ミーティングで、ピボタル試験設計についてFDAの同意を得ます。
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第I~II相の開発中にFDAとミーティング
第I相終了 (EOP1) ミーティング、タイプCミーティング、タイプDミーティングを通じて、FDAと早期かつ頻繁にやり取りを行います。入手したすべてのエビデンスを規制当局に提示し、新たに得られた臨床アウトカムに基づいて用量設定戦略とRP2Dの決定を正当化します。用量の根拠や取り組みが妥当であることについて、FDAの同意を得ます。
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主要目的は安全性
最大限の反応を得るために忍容可能な最高用量を見つけます。
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安全性と有効性の両方を検討
安全性と有効性の最適なバランスと、良好な耐容性を示す用量を見つけます。最適用量とは、それ以上またはそれ以下に調整できない用量を意味します。
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最大耐用量 (MTD) を決定
MTDを決定した後、第Ib/II相に直接進むか、場合によっては単回投与によるピボタル試験に進みます。
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有効用量の範囲を特定
RP2Dを決定する前に、後続の用量拡大コホート、または用量最適化のための無作為化用量設定試験で、複数の用量レベルを検討します。MTDアプローチはもはや受け入れられません。
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ルールベースの静的な3+3用量漸増デザインを使用
第II相推奨用量 (RP2D) に達するまで治験参加者を3例ずつ登録し、登録人数をできるだけ少なくします。
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柔軟かつ効率的な試験デザインを使用
ある用量範囲にわたって有効性と安全性を捕捉し、コホートを拡大して最適用量を見つけます。
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迅速に進める初期開発
用量漸増から単一拡大コホートにできるだけ早く進みます。
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用量-反応関係/曝露-反応関係を徹底的に調査
統合的な用量-曝露-反応解析を実施します。安全性 (従来の安全性バイオマーカーや臨床事象)、薬力学 (標的エンゲージメントバイオマーカーやパスウェイ関連バイオマーカー)、有効性 (放射線画像バイオマーカーや血液ベースバイオマーカー) など、入手可能なすべての非臨床、薬物動態、臨床アウトカムデータをプールします。
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命を脅かす重度の毒性を監視
最も重要な用量制限毒性は、グレード3以上の有害事象 (AE) です。忍容性に関する患者報告アウトカム (PRO) データは、可能であれば開発後期に収集します。
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生活の質を含む安全性
開発の早い段階で、CTCAE-PROなどのツールを使用してPROを収集します。軽度の下痢や疼痛などの低グレードのものも含め、すべてのAEを検討の対象とします。客観的および主観的なツールを使用し、各用量レベルで全般的な安全性と忍容性を評価します。薬力学と有効性の観点からデータ全体を検討して、用量を絞り込みます。
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可能な限り迅速に進める治療薬の開発
後期段階の試験の失敗は、「事業を行うためのコスト」の一部と想定されています。
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最も有望な分子の試験のみを優先的に推進
シームレスな第Ib/IIa相試験を使用し、不確実性を体系的に排除することによって継続/中止の意思決定を改善します。不完全なエビデンスのまま早急に第IIb/III相試験に進むのではなく、「早い段階で失敗」します。
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迅速審査規制プログラムは、用量最適化のためのエビデンスの基準を緩和
たとえば画期的治療薬指定や迅速承認薬では、必要な試験が少なくて済みます。
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最も有望な分子の試験のみを優先的に推進
シームレスな第Ib/IIa相試験を使用し、不確実性を体系的に排除することによって継続/中止の意思決定を改善します。不完全なエビデンスのまま早急に第IIb/III相試験に進むのではなく、「早い段階で失敗」します。
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市販後コミットメントは当然の業務である。
医薬品の承認後に、医師に投薬の詳細を整理させます。
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市販前評価中に、用量、曝露量、安全性、有効性の関係を明確化
承認前に投薬の詳細を整理します。
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参考資料:パレクセルの専門家による分析およびFriends of Cancer ResearchのQ&A (2022年4月7日) オンコロジー医薬品開発における投与の最適化
略語:CTCAE=有害事象共通用語規準、DMC=データモニタリング委員会
Contributing Expert