患者さんのプレシジョン オンコロジーへのアクセスには、残念ながら限定されているという実情が依然としてあります。これには次のようないくつかの理由があります。
- 患者さんの複雑な治療行程:米国の医療制度は細分化されており、がん患者が呈する症状はさまざまです。そのため、患者さんが適切な臨床試験について知り、アクセスするのを困難にする治療経過が生じることがあります。
- バイオマーカー検査へのアクセス格差:特定のプレシジョン オンコロジー試験や治療への適格性を判断するために必要な遺伝子検査、分子検査、組織化学的検査を受けられる患者さんはほとんどいません。また、次世代シーケンス解析 (NGS) を用いたパネル検査など、高度な検査オプションの知識を医師が持ち合わせていない場合もあります。
- 治験に関するさまざまな知識:患者さんの臨床研究に関する知識には個人差があり、医師も利用可能な臨床試験オプションについてすべてを把握していない場合があります。このような状況では、患者さんの紹介や潜在的に有益な試験への参加が制限される可能性があります。
- 治験参加の負担:プレシジョン医療による治療の中には費用が高額になるものがあり、保険適用範囲が制限されるため、治験への参加を含め、患者さんが必要なケアを受けられない場合があります。
- 分断化されたがん専門分野:状況によっては最適なプレシジョン オンコロジー治療で、外科、内科、放射線腫瘍医など、複数の専門分野が連携する必要があります。しかし、医療インフラが必ずしも協働に適しているとは限りません。
ギャップを解消する5つのベストプラクティス
パレクセルでは臨床試験によって、患者さんのプレシジョン オンコロジーへのアクセスにおける不平等を是正できると考えています。たとえば、ほとんどのプレシジョンオンコロジー試験では、バイオマーカー検査 (多くの場合NGSパネル検査) を用いて患者さんの適格性をスクリーニングします。これらの高度な検査では、特定の臨床試験のマーカーだけでなく、他の臨床試験や治療法の候補となる患者さんを特定する数百の他のマーカーも検出できます。スクリーニング プロセスでは、治療についてより良い判断を行うために役立つ重要な情報が患者さんに提供されます。
パレクセルでは臨床試験によって、患者さんのプレシジョン オンコロジーへのアクセスにおける不平等を是正できると考えています。
弊社は医療システムのギャップを解消し、患者さん、施設、医師の参加を促して、プレシジョン オンコロジーを推進するために5つのベストプラクティスを基盤としています。
1. 最も適格な施設を選定し、パートナーとして提携
成功するにはプレシジョン オンコロジーの治験実施施設に、有資格の研究者と高度な設備が必要となります。パレクセルでは自社のサイト アライアンス オンコロジー ネットワークにおいて、関心、地域、能力、患者集団、治験責任医師 (PI) の包括的なプロファイルを維持管理しています。
最適な施設が特定されたら、次のような基本的な問いかけから始め、カスタマイズされた教育とコミュニケーションの戦略を策定します。この試験に対して施設スタッフの熱意が高まる理由は何か。施設スタッフは基礎科学、作用機序、そして試験の評価対象となるプレシジョン治療の潜在的な利点を理解しているか。臨床研究についての知識がない方から広範な研究に携わる人まで、さまざまな背景を持つ患者さん、ご家族、介護者とコミュニケーションをとることができるか。私たちは施設との関係性を開発パートナーシップの構築として捉えています。施設と協力しながら、より多くの患者さんに効果的な治療を届けるため、臨床研究のすべてのフェーズをサポートします。
治験に参加する従来の意思決定プロセスには、治療担当医師、患者さんとそのご家族が関与します。施設は話し合いに治験の選択肢を取り入れることで、意思決定の枠組みを拡張できます。
施設は関与に意欲的です。施設スタッフは患者さんの寿命を延ばし、生活を改善する可能性のある医薬品を提供したいという強い思いがあります。また、試験によってエビデンスに基づく医療や施設の財政的支援が増強され、サービスの拡大やより良いケアの提供のためにスタッフの採用が可能になります。治験が著名な医学雑誌に掲載されることで、施設の評判が高まり、医師や患者さんの募集状況を改善することができます。
施設スタッフの知識、熱意、治験への支援は、患者さんが参加を決断する上で極めて重要です。施設の効果的なコミュニケーション戦略を掲げている治験依頼者は、参加者を効率よく募集し、継続させることができます。
2. 患者さんの経験や動機を理解し、適切に対応
治療の選択肢として治験を探している患者さんは多くいます。革新的で新しいプレシジョン オンコロジー治療の治験は、主要な研究機関で世界的に多く実施されています。したがって、治験によって標準治療群に割り当てられた患者さんであっても、質の高い治療を受けることができ、これが地域を問わず患者さんの動機づけの要因となっています。
米国ではがん治療が手頃な負担で受けられることが、患者さんの治験参加の決断に影響を及ぼします。ほとんどの患者さんは提案された治療法と紹介医の助言を、治療費の負担と保険償還と照らし合わせて検討します。英国では国民保健サービス (NHS) により、高価ながん治療薬が利用できるように管理されています。NHSの薬剤リストに載っていない医薬品を利用する唯一の方法として、治験を探す患者さんもいます。
かなり進行したがんや希少がんであるため、他に治療の選択肢がない患者さんも、治験への参加を強く希望する傾向があります。
効果的かつ効率的に治験参加者募集を進められるかは、患者さんへの明確な説明と治療チーム内の専門家の連携に大きく依存します。たとえば、ネオアジュバント免疫療法に基づいたがん治験では、最初に化学療法と免疫療法を用いて患者さんを治療し、その後に手術を行ってから追加の治療を行います。患者さんを層別化するために、プレシジョン病期分類 (疾患重症度の正確な評価) が必要となり、外科医、放射線科医、臨床医の間で緊密な連携が求められます。
新たに診断されたがん患者さんの多くは、がんをすぐに外科的に切除することを望みます。外科医や放射線腫瘍医が新しい治療パラダイムよりも、標準治療パラダイムを推奨する場合もあります。しかし、一部のがんにおいては、ネオアジュバント療法の治験の方が高い有効性が示されているものもあります。このアプローチがどのような場合により有益となるかを患者さんと医師が理解する必要があります。患者さんと医師は、このアプローチがどのようなケースで優れているかを適切に判断する必要があります。
治験依頼者は対象となる患者さんが、自身の病気や治療計画についてどのような考えを持っているかを理解するための時間を設けると、患者さんの現実、懸念、優先順位に合った資料を開発することができます。
3. 治験参加への費用負担が生じないように調整
多くの患者さんにとって、治験への金銭的負担が不参加を決める要素となり得ます。複雑なプレシジョン オンコロジー試験を実施できるのは、特定の国のわずかな施設に限られ、それらは必ずしも大多数の患者さんにとって利便性の高い場所にあるわけではありません。それにもかかわらず、治験依頼者は治験における患者さんへの費用補償や手当プログラムは実施されていません。プロトコルに償還金額が記載されている場合でも、その金額ですべての費用をまかなえることはほとんどありません。
治験依頼者が見落としがちな患者さんの費用には、欠勤、育児と高齢者介護、交通費、宿泊費などがあります。患者さんが請求しない限り補償されないことや、そもそも何を請求してよいのか患者さんが把握していないこともよくあります。システム的な補償不足の原因は、運用の複雑さ、これらの負担が治験参加者に与える影響への認識不足、税務上の影響が不明確であることなどが考えられます。
パレクセルでは、航空便を含めたプレシジョン オンコロジー試験を目的とする移動手段を手配し、患者さんの負担を軽減するコンシェルジュサービスを提供しています。交通費の負担を軽減することで障壁が取り除かれ、参加が促進されます。
標準化された意義のある報酬と手当の枠組みを確立することによって、患者さんへの交通費を全額償還し、保育費などの追加費用を補償することで試験の公平性とアクセス性を向上させ、治験依頼者と施設が実施する募集と参加継続を促進させることができます。
4. 多方向コミュニケーションに投資
治験依頼者が予算から削減しようとする項目の1つが、患者さんおよび施設の募集と教育のための医療コミュニケーションの資金です。これはしばしば贅沢な支出と見なされます。しかし、治験依頼者から最もよく受ける変更要請の1つは、患者さんと施設向けの教育資料を追加することであり、これは試験の登録が遅れているためです。
患者さんはプレシジョン オンコロジー試験の複雑さを理解した上で、豊富な情報に基づいて参加を決断しなければなりません。 明瞭で簡潔なリソースを用意することで、患者さん、ご家族、介護者、施設スタッフ、医師、専門家の間で共有された意思決定を促します。たとえば多くの腫瘍医や治験責任医師は、患者さんと治験参加について議論する際、対話支援ツールを使用しています。このツールの品質と簡潔さは、患者さんとそのご家族に重要な概念を伝える上で不可欠であり、適切に実施されれば非常に影響力があります。
パレクセルでは対面での遠隔医療相談やスマートフォンアプリを通じて、異なる専門分野向けにカスタマイズされた教育コンテンツを提供しています。情報は印刷、オンライン、動画など、複数の形式で提供可能です。患者さんに優しくカスタマイズされたコミュニケーション戦略を初期段階から投資することは、治験開始後に救済措置を講じるよりもコスト効果が高いです。
弊社のオンコロジー ネットワーク内の施設は、プレシジョン オンコロジー試験に関する患者さんとのコミュニケーションにおいて、効果的なアイデアやアプローチを定期的に共有しています。同様に専門家とキーオピニオンリーダーが協力することで、患者ケアに対するより統一されたアプローチが促進されます。弊社は治験責任医師が、医学や科学の学会で専門知識を共有することを奨励しています。それによって、患者さんの治療プロセスを分断する部門間の壁を解消することにつながるからです。
バイオマーカー検査の価値について医療従事者や患者さんの理解を促すには、承認後の持続的な投資が必要になることがあります。2022年にEnhertu (トラスツズマブ) がHER2低発現の転移性乳がん用に承認されたとき、治験依頼者であったAstraZeneca社と第一三共社は困難に直面しました。免疫組織化学検査に基づいて、患者さんは従来、HER2陽性またはHER2陰性に分類されていましたが、Enhertuは、HER2陰性患者の約60%を占める第3の集団であるHER2低発現患者での効果が認められます 1。プレシジョン オンコロジー製品のライフサイクルを後押しするためのコミュニケーションおよび教育戦略を策定する企業が、競争上の優位性を獲得することになります。
5. 規制上のリスクを軽減
プレシジョン オンコロジー試験の規制要件は複雑であり、国や地域によって異なります。このことは最先端のプレシジョン治療である細胞・遺伝子治療 (CGT) の治験において、特に顕著です。たとえばEUでは、国によって改変された細胞の使用に関する環境上の規則、ヒト組織や血液に対する輸出入規制、試験申請書類の一部に必要となる現地の言語への翻訳、CGTを他の医薬品と同じ冷蔵庫に保管することの可否など、問題の大小を問わず規制は異なります。
2022年のEUでの体外診断用医薬品規制 (IVDR) の実施により、プレシジョン オンコロジー試験の状況は一新しました。IVDRでは治験依頼者が患者さんを選択または層別化するためにバイオマーカー検査を用いる治験に対して、性能試験申請書 (PSA:performance study applications) の提出を義務付けています。PSAの提出は開発段階早期に求められ、これはほとんどの治験依頼者がバイオマーカー検査の正確性、特異性、閾値、限度を確立する以前の段階にあたります。しかし、PSAではこれらの定義を事前に提示する必要があります。PSAの提出よりも前に臨床データが必要になる場合もあります。
2029年まで計画されていません。治験依頼者は対象集団の患者さんが存在する最も相応しい国々を、治験開始に困難であったり、開始が遅れるという理由で簡単に避けることはできません。
パレクセルは治験依頼者に対し、IVDRのリスク軽減について助言しています。たとえばIVDRでは、治験依頼者は体外診断用医療機器の主要試験と性能試験を含めて、統合したプロトコルを作成することが可能です。しかし、一方のプロトコルに固有の問題が、他のものを遅延させることがないよう、並行して提出できる個別のプロトコルをデザインすることをお勧めします。同様の理由から、体外診断用医療機器と治療薬の治験に対して、治験依頼者が別々の患者同意文書を作成して提出することを推奨しています。
パレクセルでは、プレシジョン オンコロジー試験の複雑さを克服するための知識とリソースを患者さん、施設、医療従事者に提供するよう努めています。命を救う可能性のある治験への参加機会を得る患者さんが増えるにつれ、私たちは個人に合わせたがん治療の実現に一歩ずつ近づいていきます。
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