私たちは課題を1つずつ解決することで、プレシジョン オンコロジーのビジョンを実現していきます

By Gwyn Bebb, M.D., BM, BCh, Ph.D., Senior Vice President, Global Therapeutic Area Head – Oncology

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各個人に精密に適した医薬品で患者さんを治療するというプレシジョン オンコロジーのビジョンは、手の届くところにありながら、実現にはまだ程遠い状況にあります。このパラドックスは学術研究者、腫瘍医、バイオ医薬品業界の幹部としての私のキャリアに常に付きまとってきました。

悪性脳腫瘍の特定の遺伝子変異を標的とするキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法に関する最近のニュースを読んだとき、私はこのビジョンがすぐそこまで近づいているように感じて胸が高鳴りました。難治性の致命的な悪性腫瘍として知られる神経膠芽細胞腫を有する複数の患者さんが、短期間ではあるものの、「劇的かつ急速に」腫瘍が縮小しました。1,2 この結果は、このような領域では前例のないものです。

しかし、治験デザインが進歩し、膨大な量のゲノムデータが蓄積されているにもかかわらず、プレシジョン オンコロジーの治療は依然として多くのがん患者に役立つ段階には至っていないという現状を考えると、このビジョンの実現は遥か遠いものに思えます。3,4 がんの多様性、がんと免疫システムの相互作用についての理解がまだ限られていること、検査や医薬品へのアクセスの不平等がこの夢の実現を阻む根強い障壁となっています。5

1つずつ課題に取り組むことで、私たちはマルチオミクス プロファイリング、治験デザイン、コンパニオン診断、規制戦略、商品化を推進していきます。そしてこれらすべてを患者さんの治療体験の向上という私たちの指針に焦点を当てながら進めていきます。これが私たちの目指す「北極星」です。

革新的な科学とは、患者さんとそのご家族に利益をもたらすものでなければなりません

私が8歳のとき、弟が脊髄肉腫で亡くなりました。当時の弟の苦痛と両親の悲しみは今も忘れられません。私はその出来事で、がんが人々の人生に与えるダメージを痛感しました。


私はカルガリー大学医学部の教授として、バイオマーカーを用いたプレシジョン  オンコロジーの発展を支援するために、プレシジョンオンコロジー実験治療 (POET) プログラムを設立しましたが、研究室で達成したことが直接患者さんの利益にならないことに不満を感じていました。重大な分子的発見がなされてから、それが患者さんに効果を発揮するまでの間には、大きなタイムラグがあります。


腫瘍医として勤務していたときは、臨床研究に参加してこの分野の進歩に貢献したいという患者さんの意欲に突き動かされました。私は未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 陽性肺がんに対するプレシジョン オンコロジーの治療により、診断から12年間生存していたTerry Moreyさんという肺がん患者さんを治療する機会に恵まれました。6 Terryさんはこのレポートで自身の歩みを語っています。


最終的に私は科学的イノベーションを患者さんに役立つ治療法に変換する最善の方法は、バイオ医薬品業界の投資回収への強い意欲を活用することだと気づきました。その一員となるために私は学界から産業界に移りました。

パレクセルで治験依頼者と仕事をする中で、私はよくプレシジョン オンコロジーの第二のパラドックスに直面します。それは魅力的な長期ビジョンに近づくには、現実的な短期課題 (ありふれたものもあれば、解決できなさそうなものもあります) を解決するしかないということです。私たちはマルチオミクス プロファイリング、治験デザイン、コンパニオン診断、薬事戦略、商品化など、1つ1つの課題に取り組んでいます。そしてこれらすべてにおいて、患者さんの治療経過を改善することに常に重点を置きながら進めています。これが私たちの目指す「北極星」です。

プレシジョン オンコロジーはこれまでゆっくりと発展してきました。それは今後も変わらないでしょう。この探求において患者さんは私たちのガイドであり、パートナーでもあります。患者さんには、どの次世代シーケンシング検査やシームレスなプロトコルが最適かという議論に参加する権利はありません。そうでなければ医薬品を商業的に成立させることはできないでしょう。しかし、患者さんが自身の時間、エネルギー、生体サンプル、遺伝子データを提供し、治験に参加するという意志を持たなければ、この分野は進歩しません。開発プログラムをどれだけ合理化しても、製品が患者さんのニーズに応えていなければ意味がありません。

バイオマーカーの特定やそれらを標的化する革新的なアプローチにおいて、新たな開発が急速に進んでいます。プレシジョン オンコロジーを前進させる手段として最も有望視されているのは、分子構造の解明におけるAIの活用と、容易に修飾可能な核酸配列を今まで以上に治療薬として利用することです。私たちの課題は、この絶えず変動する状況を切り抜ける道筋を描くことです。

プレシジョン オンコロジーはこれまでゆっくりと発展してきました。それは今後も変わらないでしょう。この探求において、患者さんは私たちのガイドであり、パートナーでもあります。

ビジョンへのロードマップの構築

理想的なプレシジョン オンコロジー療法とは、最小限の標的外毒性で最大限の効果をもたらし、すべての人に公平に開かれているものです。そこにたどり着くまでには、まだ長い道のりがあります。 

このレポートでは、医薬品開発者 (学術研究者、革新的な小規模バイオテクノロジー企業、大手製薬会社) が直面するいくつかの障壁と、それらを克服するための弊社の支援方法について考察しています。私はパレクセルの有能で献身的なチームのインサイトを皆様に紹介できることを誇りに思います。このチームはオンコロジー専門の患者支援者、臨床科学者、トランスレーショナル サイエンティスト、医薬品開発の専門家、統計学者、データマネージャー、元規制当局者で構成されています。治験依頼者が彼らの経験を活かして、がんのプレシジョン メディシンを市場に投入し、多くのがん患者さんがその恩恵を受けられるようになることを願っています。

  1. Terry Moreyさんは、免疫療法薬の治験に参加することで恩恵を受けた76歳のカナダ人肺がん患者です。彼の事例は、患者さんとそのご家族の人生を変えるプレシジョン オンコロジー (彼のケースはチロシンキナーゼ阻害剤) の力を示す好例です。
  2. パレクセルのチーフ ペイシェント オフィサーであり、がん生存者でもあるStacy Hurtは、遺伝子検査とそこから得られたデータへのアクセスを民主化し、さらに患者さんが関連性の高い治験を迅速に見つけられるようにすることが、プレシジョン オンコロジーの進歩に不可欠であると主張しています。これは現在の治療パスウェイに実用的な改善をいくつか加えれば実現可能です。
  3. パレクセルの治験実施施設の管理専門家であるAngela HirstとKaren McIntyreは、従来のように主要な学術研究センターに頼るのではなく、地域施設でプレシジョン オンコロジー試験を実施したいと考えている治験依頼者のために、5つのリスク軽減戦略を提示しました。治験がより身近なものになれば、患者さんは最先端の治療を受ける機会を得られます。治験依頼者も登録期間の短縮、患者集団の多様化を実現するとともに、学術センターと同等の高品質の治験データを得ることができます。
  4. パレクセルのバイオマーカー&ゲノム医学部門のグローバル責任者であるAngela Quに、マルチオミクスデータと計算分析の進歩が新たなバイオマーカーの発見や利用をどのように加速させているかを尋ねました。企業は往々にして、初期の探索的バイオマーカー研究を終えた後の技術的、分析的、臨床的なバイオマーカー検証に必要な労力を過小評価しがちです。
  5. Sinan SiracとPengfei Songは元規制当局者で、プレシジョン オンコロジーに関する数十件の申請を共同で審査したことがあります。彼らはFDAのプロジェクト オプティマスの要件を満たすのに苦労している企業のために3つの戦略を提案しています。広範な用量最適化を行うには、治験参加者登録数を増やしてより多くのデータを収集し、より徹底的な解析を実施して、初期段階のオンコロジー試験により多くの時間とリソースを費やす必要があります。
  6. パレクセルの医療機器専門家であるTrisha Eustaquioが、治験依頼者がコンパニオン診断 (CDx) を検証するためになぜリソースを管理し、最も負担の少ない規制パスを通る必要があるのかを説明します。研究グレードのアッセイから臨床グレードのアッセイにシームレスに移行するには、規制当局と複数にわたる戦略的やり取りを交わす必要があります。

プレシジョン オンコロジーを前進させる手段として最も有望視されているのは、分子構造の解明におけるAIの活用と、容易に修飾可能な核酸配列を今まで以上に治療薬として利用することです。

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