米国における開発者の希少疾患治療薬の保険償還に関する問題への対応策

By Sangeeta Budhia, Vice President, Pricing & Market Access
Carrie Jones, Partner at Health Advances

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米国における開発者の希少疾患治療薬の保険償還に関する問題への対応策

なぜこれほど高額な希少疾患治療薬が市場に流通しているのですか?

Juan: 現在の希少疾患治療薬の開発モデルは、価格は高額であるものの対象となる患者さんの数が少ない治療薬をより迅速に開発することを目的としたものです。これは投資家や製薬会社にとって非常に魅力的なモデルでした。超大型新薬を1つ開発する代わりに、超希少疾患治療薬を開発している多くの小規模な企業を買収してポートフォリオにまとめればいいからです。希少疾患治療薬はいずれも保険者の予算への影響が小さいため、市場アクセスの抵抗からある程度保護されてきました。 

Sangeeta: このような治療薬の数が増加し続けているのには、2つの理由があります。1つは科学と生物学の著しい進歩です。もう1つは大量販売される医薬品よりもはるかに効率的に取り組むことができるため、製薬会社やバイオテクノロジー企業が小規模な患者層や処方者層を好んでターゲットとしていることです。 

価格が高いのは、プログラムの基本コスト、失敗も含めた研究開発費、市場に受け入れられる価格が含まれているからです。その多くが希少疾患を対象としている遺伝子治療は、製造プラットフォームの拡張性が高まり、自家同種治療が減って同種異系治療が増えるにつれて、費用は下がる可能性があります。この20年間にモノクローナル抗体で同様のことが起こりました。しかし、細胞・遺伝子分野で個別化された医療に取り組んでいる製薬会社の責任者から最近聞いた話によると、その会社は製造規模が不足しており、国境を越えて医薬品を輸入することもできないそうです。そのため、複数の製造拠点を構築しなければならず、投資額は莫大なのに利益は薄いと言います。

これは米国の医療制度にどのような影響を与えていますか?

Wyatt: 承認済みおよび開発中の希少疾患治療薬の急増は、医療制度を圧迫しています。私たちは医療保険者に対し、これまで保険対象外だった治療法の保険適用を求めています。

Sangeeta: 保険者はこのモデルは持続可能でないと考えています。なぜなら、上市されるCGT (細胞・遺伝子治療)や超希少疾患治療薬が増えることで、それらの医療費の保険償還方法に大きな負担がかかるからです。 

やがて制度に亀裂が生じると思います。その一つは自己保険を運用している中小規模の企業です。このような企業の多くは、保険に加入していない患者さんは製薬会社の患者支援プログラム (PAP) を利用することで費用を負担してもらえるという根拠に基づいて、希少疾患治療薬を保険適用外としています。製薬会社はPAPを本当に必要とする患者さん向けに提供しており、これまでプログラムの対象となるのは患者集団の10%未満でした。そもそも、これらのプログラムは雇用主団体の費用を負担することを意図したものではありません。PAPの中には、患者集団の30%に近づいているものもあります。これは持続可能な状況ではなく、この傾向が続けば、製薬会社はPAPを終了させるか、このような用途には利用できないように規約を変更するでしょう。

Carrie: その一方で、保険者は希少疾患治療薬に対する審査を強化しています。米国では保険者は依然として実質的に価格受容者であるため、特定の患者集団や治療ラインへのアクセスを制限するために、事前承認、再承認、段階的変更、数量制限といった制約を課す利用管理戦略をとっています。 

たとえば、当該治療にアクセスできる患者集団が、治験の対象集団に明確に含まれる患者さんに限定される場合があります。場合によっては、この制限はラベル表示よりも厳しいものになります。弊社の分析によると、より厳しい制約を課している保険者は、保険適用者の50%に影響を与えています。

製薬会社はPAPを本当に必要とする患者さん向けに提供しており、これまでプログラムの対象となるのは患者集団の10%未満でした。そもそも、これらのプログラムは雇用主団体の費用を負担することを意図したものではありません。

Juan Camilo Roman, M.B.A.
Vice President, 
Health Advances

希少疾患を扱う企業にはどのようなリスクがあり、それらのリスクをどのように管理できますか?

Carrie: 私たちは治験デザインに対する保険者の反応を予測するため、お客様が事前に選択肢をモデル化できるよう支援しています。特定の事前承認要件がどの程度負担になるかを検証し、これらの要件に実際にどのように対処できるかを医師とともに検討します。治療法の価値を実証し、価格構造に対する保険者と製薬会社の考えを一致させるために、価格設定分析、市場調査、医療経済モデリング手法のツールを活用しています。弊社の予測において評価するのは、「さまざまな治験デザインと患者選択基準が、異なる価格帯における保険者の保険償還にどのように影響するか」ということです。これは市場アクセスを考慮して、患者集団をどのように調整すればよいかを見極め、それをさまざまなシナリオでモデル化して治験デザインと市場機会との戦略的トレードオフを導き出すのに役立ちます。また弊社は価値ストーリーを裏付けるために、リアルワールドエビデンスを含むエビデンス生成戦略の開発も探究しています。

たとえば、希少疾患のピボタル試験をデザインしようとしている企業に協力し、患者組み入れのための特定のバイオマーカーしきい値の設定が市場機会全体にどのように影響するかを分析しています。また、保険者が事前承認の制約を設定する可能性を評価し、保険者から特定の条件が課された場合に患者集団の何パーセントが当該治療に適格となるかを割り出します。

Sangeeta: マネージド エントリ契約のモデル化も行っています。マネージド エントリ契約とは、新薬の財務的影響や実績を取り巻く不確実性を管理しながら、新薬の保険適用を可能にするために製薬会社と医療保険者が交わす取り決めのことです。これらの契約には通常、支払条件と価格に加えて、成果の測定方法や臨床成果に対して報酬を与える仕組み、成果が達成されなかった場合に支払いを回収する仕組みが含まれます。

弊社の調査によると、ICERの費用対効果レポートは保険者との価格交渉においてますます重要な役割を果たしており、ICERのレビューに対して準備することで望ましい結果が得られる可能性が大幅に高まります。ICERが影響力を持っているのは、パブリックコメントの公表や収集において、この団体が独立性、客観性、透明性を担保しているからです。他のモデルと同様に、ICERのモデルも一連の仮定に基づいています。私たちはICERと同じようにモデルを構築し、さまざまな価格や有効性レベルで何が起こるかを検討することで、お客様がICERや保険者と効果的に交渉し、自らの主張を説明できるよう支援しています。

インフレ抑制法が希少疾患治療薬に与える影響はどのようなものになると思いますか?

Carrie: これがどのような影響をもたらすかは、まだわかりません。しかし、希少疾患を扱う企業からは反発が出ると思います。なぜなら、これは希少疾患の開発を促進するというオーファンドラッグ法の趣旨と矛盾するからです。希少疾患関連企業は対象適応症における自社製品の収益ポテンシャルを検討し、CMSの標的となる可能性のある他の製品と比較して、当該製品が総予算にどの程度影響するかを分析する必要があるでしょう。これにより価格交渉の可能性を評価し、価格引き下げがプログラムに及ぼす影響をモデル化することができます。

開発者が保険者から希少疾患治療薬の償還を受けるにはどのような手段があるでしょうか?

Sangeeta: 希少疾患や遺伝子治療に関して、保険者からは「高額な費用を支払うのであれば、その医薬品が確実に効果を発揮すると確信できなければならない。そうでなければ、保険者は支払額を払い戻すか、上限を設ける」と主張する傾向が強まっています。そこで私たちは希少疾患向けの遺伝子編集治療を開発しているお客様のために、さまざまな価格帯において保険者がどのような利用管理を実施する可能性が高いか、また保険者がリスク分担契約や成果連動型契約にどの程度前向きであるかを調査しています。

Juan: 強力な手段の一つは、価値に基づく契約です。Alnylam社は保険者との契約を締結し、制度の持続可能性を確保するために、高リスクの異常に高額な費用を軽減しました。たとえば、ある疾患の実際の有病率が予想よりはるかに高かった場合、異常に高額な治療費の一部をAlnylam社が肩代わりします。また、体重によって投与量が大幅に変わる製品については、患者さん1人あたりの固定費用を保証しました。 

このような契約は異常値を軽減するため、通常はプランに数パーセントのリベートがかかります。しかし、これによって保険者のリスクは軽減されます。また、製薬会社側には市場に迅速にアクセスできるという利点があります。ある医薬品について、弊社は上市の2年前から保険者との協議を開始し、当該医薬品の価値、価格の見通し、価格に対する保険者の懸念、保険者がどこにリスクを感じているかについて話し合いました。これによって保険者を過剰なコストから守り、なおかつ製薬会社に多大な費用負担をかけないリスクコリドーをモデル化することができました。この手法は非常に効果的です。なぜなら保険者が、自分たちの懸念に真摯に耳を傾けてもらえること、そしてしっかりとした事前準備によって製薬会社からの依頼を迅速に審査できることを高く評価してくれるからです。 

このプロセスは、上市予定の約2年前に開始して合意を形成するのが賢明です。重要なのは希少疾患治療薬の上市を検討し始めるときに、パートナーとして保険者とどのように関わっていくかも併せて検討することです。

Contributing Experts

Sangeeta Budhia

Vice President, Pricing & Market Access