Ipsen社は希少疾患の研究において、データと患者さん中心のアプローチを採用

By Jennifer Schranz, M.D., Senior Vice President, Global Head, Rare Diseases, Ipsen

8 min

Ipsen社は希少疾患の研究において、データと患者さん中心のアプローチを採用


Ipsen社は、オンコロジー、希少疾患 (RD)、神経科学の分野で、価値が高く持続可能なパイプラインの構築と拡大に注力している世界的な中堅バイオ医薬品企業です。同社は2023年3月にAlbireo社 (NASDAQ: ALBO) の買収を完了しました。Albireo社は承認されたRD製品である「Bylvay」を使用し、小児および成人の胆汁うっ滞性肝疾患を治療するための胆汁酸調節剤に重点を置いているバイオテクノロジー企業です。Ipsen社は既存の治療の選択肢との差別化、あるいは患者さんのアンメットニーズを満たすことができる業界最高のテクノロジープラットフォームや、製品を優先する社内外のイノベーション戦略を実施しています。今回はIpsen社のシニアバイスプレジデント兼希少疾患のグローバル責任者であるJennifer Schranz博士に、課題が多く急速に変化する希少疾患分野に対処するためのベストプラクティスについて伺いました。

数年ごとに希少疾患戦略を刷新

Ipsenでは2年ごとに戦略を刷新しています。この見直しには、希少疾患の規制環境と政策動向の徹底的な分析、自社のポートフォリオの厳格な調査が含まれます。私たちは社内プログラムと外部アセットの取得に高い基準を設けています。弊社が投資する、または投資を維持するプログラムは、革新的または破壊的な技術に基づいて、ゲームチェンジャーになる可能性を秘めたものでなければなりません。ファーストインクラスやベストインクラスの製品は、患者さんに大きな影響を与え、現在の市場で最も優れた成果を上げるものです。

弊社では、科学者、臨床医、規制や市場アクセス、患者支援などの専門家を含む部門横断的なグループで、アンメットニーズを定義します。承認された治療法がほとんどなかったり、存在しない疾患に焦点を当て、明確な作用機序と前臨床データが存在する領域に注力しています。疫学に焦点を当て、この分野で革新的な治療法を開発し、提供できる可能性を判断します。これは希少疾患か超希少疾患か?疾患の自然経過が十分に理解されているか?患者レジストリがあるか?患者さんの治療経過に関する情報や、臨床評価項目に関するアドバイスを提供してくれる確立された患者支援団体があるか?臨床開発に関する情報を得るのに自然経過 (NH) 試験を実施する必要があるか、または疾患レジストリを使用できるか?たとえば、ファーストインクラスの製品では多くの場合、臨床的に有意義で患者さんに関連があり、規制当局に受け入れられる評価項目を確実に収集していることを確認するために、NH試験が必要になります。また、現在の標準治療、既存および将来の競合治療法の状況、十分に確立された規制パスウェイと償還パスウェイがあるかどうかも詳細に調べます。そして疾患の経過に本当の影響を与えるために、対症療法よりも疾患修飾療法を優先します。

これは包括的なプロセスであり、定期的に行うには規律と熱意が必要ですが、私たちはこれを真剣に受け止めています。進歩について賢明な決定を下すことは、改善を望んでいる患者さんの生活と、企業としての持続可能性にとって非常に重要だからです。Ipsenが重点を置いていて強みのある希少疾患分野には、筋骨格 (骨) 疾患、代謝異常、内分泌疾患、消化器 (肝臓) 疾患、神経筋疾患などがあります。ですが、どの企業でも自社の重点分野における戦略の見直しにこれらの概念を適用することができます。 

患者さんと協力して効率的で適切な治験をデザイン

私たちはプロトコルのデザインプロセス、特に手順や評価スケジュールに患者さんを参加させ、生活の質のどのデータが患者さんにとって重要かを特定することが有益であることがわかりました。プロトコルに手順や検査を多く組み込みすぎると、患者さんは疲れてしまいます。患者さんにとっての現実的で実用的なものと、規制当局が許可するものとのバランスをとる必要があります。一般的に1日または1週間当たりの消耗性疾患関連事象の数などの副次的評価項目は、血液値や画像検査などのバイオマーカーよりも患者さんにとって重要である可能性があります。対照的に規制当局は、客観的に測定できる主要評価項目に重点を置いています。弊社では患者さんの意見を集めるために、治験の同意文書や評価スケジュール、その他の治験資料の確認を患者さんにお願いしています。また、患者さんの治療経過を理解し、評価項目が臨床的に有意義で、臨床試験の環境で実現可能であることを確認するために、患者諮問委員会を開催しています。

Ipsenでは最近、科学会議で患者さん主導のシンポジウムを開催しました。臨床医がセッションの司会を務め、原発性胆汁性胆管炎 (PBC) 患者支援者が、科学者の聴衆に直接話をしました。セミナーの名称は「グラフの背後にいる患者さん」でした。PBCの患者さんに、この疾患とともに生きるのはどういうことなのか、その声を届けたいと思いました。患者さんの声は、規制当局、医療技術評価 (HTA) 機関、臨床医にとって、ますます説得力を持つようになっています。特にFDAでは、患者さん中心の医薬品開発の公開ミーテイングシリーズや、患者さんが諮問委員会会議で発言することを認める方針を通じて、患者さんにオープンな議論の場を提供しています。これらの会合で提示された証言とデータは、一部のケースにおいてFDAの考え方を再構築するきっかけとなりました。

治験実施施設での教育とトレーニングへの投資がもたらす長期的な利益

希少疾患治療薬の開発の課題の一つは、治験に必要な施設と患者さんの比率です。1人の患者さんを見つけて、ご家族を含めた状況を十分に考慮し、治験実施施設への移動を可能にするための適切な配慮を行うためには、多数の施設の教育・トレーニングが必要になる場合があります。患者さんが移動困難な場合や、、遠隔地に住んでいる可能性があることを理解することが重要です。施設は臨床試験の工場ではありません。各施設を規制に準拠した臨床研究を実施できるように準備するには、多大な労力がかかります。看護師、治験コーディネーター、ロジスティクスサポートスタッフ、臨床医は、優れた臨床実践ガイドラインと規制要件について最新の情報を把握しておく必要があります。これには、現在の患者ケア方法に反する可能性のある慣行も含まれます。しかし、施設でのトレーニングと教育に投資することで、その地域の科学的なレベルが上がり、患者さんのアクセスが増加するため、公共の利益にとって非常に大きな利点があることがわかりました。さらに最終的に治験に参加しないとしても、施設は拡大されたアクセスプログラムで新しい製品を投与する準備が整います。

ファーストインクラスまたはベストインクラスの製品は、患者さんに大きな影響を与え、現在の市場で最も優れた成果を上げるものです。 

ランダム化比較試験は依然としてゴールドスタンダードである

NH試験からは、患者報告アウトカムなど評価項目選択に役立つ情報を得られますが、プラセボ対照試験のデータほど説得力のあるものはないことがわかりました。もちろん、プラセボ対照群を組み込むのは難しい場合もあれば、不可能な場合もあります。クロスオーバー試験は常に可能であるとは限りません。FDAはNH試験を非盲検単群試験の外部対照として使用することに関するガイダンス文書を発行していますが、方法論的および統計的に解決されていない問題が多数あることがわかりました。患者さんが自分自身の対照となる場合でも、患者さんが本当に一致しているのかどうかについては、常に疑問が残ります。また、超希少患者集団を最初にNH試験に登録し、次にピボタル臨床試験に登録する場合、その期間中に疾患が進行し、研究しているのが同じ症状ではないという状態になっている可能性があります。また、後ろ向きNH試験には、多くの理論的なマッチングおよびモデリングが必要になります。ランダム化比較試験が依然としてゴールドスタンダードです。 

難しい決断であっても誠実にコミュニケーションを行う

パイプラインのアセットについて難しい決断を下さなければならない場合があり、それによってプログラムが終了することもあります。開発中に安全性シグナルが現れた場合や、有害事象が有効性を上回る可能性により、製品のリスクとベネフィットのバランスが変化した場合は、患者さんと治験責任医師に難しい決断を説明します。しかし、弊社では常に患者さんの安全性を第一に考え、患者さんにふさわしい敬意と誠実さを持って治療を行っています。高い誠実性とは、患者集団がこの知らせを固唾をのんで待っているとわかっていても、残念な知らせを透明性を持って伝えることでもあります。これは私たちが望む会話ではありません。だからこそ、デューデリジェンスを非常に真剣に受け止め、アセット選択を徹底し、常に患者さんのニーズに耳を傾け、それに応じて行動しているのです。

私たちはプロトコルのデザインプロセス、特に手順や評価スケジュールに患者さんを参加させ、生活の質のどのデータが患者さんにとって重要かを特定することが有益であることがわかりました。

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