細胞・遺伝子治療 (CGT) の希少疾病用医薬品開発に関する5つの規制上の誤解

By Steve Winitsky, M.D., Vice President, Technical - Regulatory Strategy

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細胞・遺伝子治療 (CGT) の希少疾病用医薬品開発に関する5つの規制上の誤解

かつてFDAに勤務し、今はパレクセルのお客様との業務において、私はFDAの生物製剤評価研究センター (CBER) と組織・先進治療部 (最近「治療製品局」に名称が変更) が希少疾患治療薬の指定を受けた細胞・遺伝子治療 (CGT) をどのように見ているかに関して、いくつかの根強い誤解に遭遇してきました。

そのうちの5つを以下にご紹介します。

誤解1

迅速審査プログラムはエビデンスの基準を下げて、開発を加速するものである

多くの企業は、画期的治療薬 (BTD) や再生医療先進治療 (RMAT) といった価値あるFDA指定の獲得を喜びます。特に希少疾患用CGT製品の場合、このような指定が得られれば、比較的少量で説得力の弱い有効性データでも、開発を進められると期待する企業も少なくありません。FDAに勤務していた頃、私はCGT企業からたびたび、RMAT指定を理由に試験数の縮小や低品質のエビデンスを許可するよう求められました。そのたびに迅速審査プログラムの指定を受けたからといって、承認に必要なエビデンスの要件が軽減されるわけではないことを説明しました。

FDAは希少疾患治療薬指定の適応症に対する新規の医薬品、または生物学的製剤を小規模な単一群ピボタル試験に基づいて承認することがよくあります。しかし、その製品が大きく革新的な臨床的ベネフィットをもたらさない場合は、追加の試験が必要になることがあります。また、適切にデザインされた自然経過試験や、その他の厳格な外部対照データが要求されることもあります。こうした要件は開発を速めるどころか、遅らせる可能性があります。

誤解2

希少疾患のCGTは必然的にFDAから特別視される

FDAのリソースに限りがある現在の環境では、CGTの開発プログラムは、たとえそれがファーストインクラスの医薬品であり、希少かつ深刻なアンメットメディカルニーズに応えるものであっても、規制当局との議論が不十分なために停滞する可能性があります。

2022年9月、FDAは現在および将来的な業務量の増加を理由に、OTATをCBER内の‟スーパーオフィスに昇格“させ、名称を「治療製品局 (OTP)」に変更すると発表しました。元規制当局者としての目から見ると、この組織改編はFDAのリソースが不足していて、より狭い領域に特化したCGT申請の急増に対応できないことを示唆しています。ディレクターのWilson Bryan氏が最近述べていたように、BTまたはRMATの指定は今やOTPとの優先的なミーティングの前提条件となっています。BTまたはRMATのステータス、あるいは目覚ましい予備臨床データがなければ、希少疾患指定のCGTであっても、必ずしもFDAが特別な関心を寄せるとは限りません。

RMAT指定の利点の一つは、RMATの初回包括的ミーティングであり、そこでは治験依頼者の臨床試験と製造開発戦略について分野横断的な議論がなされます。この初回ミーティングは非常に有益であるという感想が多く、RMAT指定プログラムのミーティングはすべてタイプBの優先度でスケジュールされます。弊社ではお客様がこの機会を最大限に活用できるように、これらのミーティングの準備作業を支援しています。

誤解3

希少疾患のCGTは臨床的に意義のある評価項目に基づいて、迅速承認を受けることができる

欧州連合では欧州医薬品庁 (EMA) が条件付き販売承認 (CMA) と呼ばれる認可制度を設けており、アンメットニーズに応える製品は「通常要求されるよりも包括性の低いデータ」で承認されます。この仕組みにより、患者さんはベネフィット・リスクデータが不完全であっても医薬品にアクセスできます。 

米国においてCMAに最も近い経路は、FDAの迅速承認 (AA) です。しかし、CMAとAAの間には決定的な違いがあります。CMAは当該医薬品について入手可能なエビデンスの量に関連しているのに対し、FDAはAAを特定の種類の評価項目に関して収集された有効性データに関連するものと解釈しています。したがって、CGTについてAAを受けるには、臨床的に意義のあるアウトカムと相関する可能性が「合理的に高い」代替有効性評価項目を使用する必要があります。 

CMAとAAは混同されがちです。私は臨床的に意義のある主要有効性評価項目に基づくAAの申請が、代替評価項目ではないという理由で却下された例を目にしてきました。前例にかかわらず、迅速審査規制プログラムについてあれこれ推測することは危険です。治験依頼者は最終的な開発計画を策定する前に、AAの評価項目やその他の側面についてOTPと協議し、同意を得る必要があります。 

誤解4

CGTの長期追跡調査試験は治験依頼者に大きな価値をもたらさない

承認済みの希少疾患治療薬の長期追跡調査 (LTFU) 試験を、数多くある承認後要件項目のうちの1つに過ぎないと考えている治験依頼者もいますが、LTFU試験は規制当局によって義務付けられているため、必ず実施する必要があります。たとえば、米国ではレンチウイルスを用いた遺伝子治療に対して、15年の安全性追跡調査が義務付けられています。また、遺伝子編集プラットフォーム技術の誕生などの科学的進歩により、ゲノム標的治療の長期追跡調査データは今後ますます重要になっていくと考えられます。しかし、適切にデザインされたLTFU試験は、治験依頼者に付加価値をもたらす可能性があります。

医学的な追跡調査はいずれも多大な費用がかかります。LTFU試験もその例に漏れず、ピボタル試験とほぼ同額の (最大3,000万ドルもの) 費用がかかる可能性があります。しかし、適切にデザインされたLTFU試験によって収集したデータは、患者さんの安全性の向上、製品の価値提案の裏付け、製品のライフサイクル管理の最適化に役立つ可能性があります。弊社がお客様のためにLTFU試験をデザインする際は必ず、FDAの安全性モニタリングに関する最低限の要件を満たすだけでよいのか、それとも製品の差別化につながるデータも取得する必要があるのかをお尋ねしています。

誤解5

規制当局は申請者の代わりに開発上の重要な意思決定を下してくれる

FDAとの早期のミーティングは、新薬臨床試験開始 (IND) 申請の前に開発戦略のリスク軽減や試験デザイン、評価項目、エビデンス生成計画の最適化を図る機会となります。 INTERACT:INitial Targeted Engagement for Regulatory Advice on CBER/CDER ProducTs やpre-INDは、そのようなミーティングの例です (2022年9月30日に成立したFDAの処方薬ユーザーフィー法VIIにより、INTERACTの適用範囲はCDER製品まで拡大されました)。十分に準備すれば、これらのミーティングは治験依頼者にとって貴重な機会となります。

多くの開発者はこれらのやり取りの中で、開発に関する複雑な疑問への明確な回答が得られることを期待しています。しかし、規制当局には企業にとって重要な開発上の決定を下すための専門知識も権限もありません。FDAに勤務していた頃、私は企業から2つの異なる製品、あるいは2通りの投与経路について意見を求められ、どちらの方が受け入れられる可能性が高いか質問されることがありました。そのようなときは、ベネフィット リスクプロファイルが最も優れた製品の開発を進めるべきだという決まり文句の回答をしていました。

最終的には開発者自身が重要な決定を下さなければなりません。望ましい結果を得る最善の方法は、規制当局の意見を傾聴した後、利用可能なあらゆるデータを活用したうえで、最善の判断に従って慎重にトレードオフを行い、計算された防御可能なリスクを取ることです。

弊社がお客様のために長期追跡調査 (LTFU) 試験をデザインする際は必ず、FDAの安全性モニタリングに関する最低限の要件を満たすだけでよいのか、それとも製品の差別化につながるデータも取得する必要があるのかをお尋ねしています。

Steve Winitsky
Vice President Technical, 
Parexel International

Contributing Expert