果たされないペイシェント セントリシティ(患者中心主義)の改善方法

By Rachel Smith, Executive Director, Rare Disease, Center of Excellence

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果たされないペイシェント セントリシティ(患者中心主義)の改善方法

私は最近、希少神経変性疾患を患う幼い息子さんを持つご家族と出会いました。ご両親は疾患の進行を抑制、または遅らせる医薬品を試験する治験に息子さんを登録しました。その後、どの評価項目においてもベネフィットが認められなかったため、製薬会社はこの治験を中止する計画を発表しました。しかし、実際にはこの薬によって息子さんの生活の質は向上していました。息子さんは食事を与えられるのではなく、自分で食べられるようになったのです。笑顔が増え、初めて声を出しました。この小さな前進は大きな力へと変わります。ご両親はこの治験に参加していた他の家族を探し出し、他の子どもたちも息子さんと同じように意味のある前進を遂げていることを知りました。そこで他の家族と団結して製薬会社と規制当局に訴え、この薬には治験の評価項目では捉えられていない真の効果があると主張しました。最終的にこれらの家族の証言とエビデンスに納得した製薬会社は、この医薬品の開発を継続することを決定しました。

果たされないペイシェント セントリシティ(患者中心主義)の改善方法

これはほんの一例ですが、希少疾患分野でバイオ医薬品業界と規制当局が直面する2つの重要な課題を象徴しています。それは患者さんと介護者さんの視点から疾患を理解すること、そして患者さんにとって適切な評価項目を選択することです。
 
「ペイシェント セントリシティ」という概念が生まれてから、10年以上経ちました。その間一部の開発者は、その理念を実践しようと努め、医薬品開発プロセス全体を通して患者さんとの継続的かつ実質的な対話に取り組んできました。

しかし、一部の企業においては、患者中心主義とは単に患者さんと30分面談を行うことを意味し、患者さんからのフィードバックは軽視されています。業界カンファレンスで患者支援団体 (PAG) の代表者にこの話題を持ち出すと、彼らは決まって呆れた表情をします。 

ペイシェント セントリシティの約束はすでに破られています。なぜでしょう?そしてどうすれば修復できるのでしょうか?

患者さんは顧客である

患者さんは、企業、規制当局、医療提供者、保険者、投資家のいずれでもなく、医薬品や治療の最終的な消費者です。しかし、医療業界はサービスの提供相手である患者さんに焦点を当てた製品開発という点で、他の業界に大きく遅れをとっています。

一つの問題は私たちの医療制度の構造にあります。これは相反する優先順位を持つプレーヤーを中心に構築されています。規模の大中小を問わず、開発者は投資利益率と市場での成功を求めます。規制当局は、健全な科学的基準、安全性基準、有効性基準を維持しようと努めます。医療技術評価機関は、治療法、費用対効果、新しい治療法の体系的な経済的影響を比較します。国民皆保険制度における保険者は、予算を念頭に置きながら、多くの人々に医療を提供しなければなりません。民間保険者は収益性の高い事業運営を望んでいます。このような複雑で論争の多い環境において、これらのプレーヤーがなぜ患者さんを見失ってしまうのかは容易に理解できます。

企業が治験をデザインして評価項目を選択する前に患者さんと効果的にエンゲージできない理由は数多くあります。まず、希少疾患とその進行過程、および疾患が患者さんや介護者の日常生活に及ぼす影響を十分に理解するには、時間と費用がかかります。また、企業には時間的余裕がほとんどありません。投資家や株主から迅速な進展を求められ、治験の開始、開発マイルストーンの達成、次回の資金調達などに忙殺されています。同時に規制当局は確立された評価項目を合理的に主張することが多いものの、新たな希少疾患に対する評価項目の枠組みの構築はなかなか進んでいません。その一方で多くの企業は、患者さんとのコミュニケーションに困難を感じており、直接的な協力により法的な問題や倫理的な問題が生じる可能性を懸念しています。そして患者エンゲージメントの分野において成功を測定する、または成功に報酬を与えるための明確な指標が欠如しています。 

上記の関係者一人ひとりは、この少年の貴重な笑顔、自ら食事を摂り感情を表現できるようになったこと、そして何よりご家族の安堵は、生活の質の向上を表していると認めるでしょう。しかし、関係者全体となると、これをどうすれば定量化できるのかがわかりません。 

もちろん、患者さんを医薬品開発のあらゆる側面、たとえばCMC、GMP、GLP、前臨床モデルなどの中心に置くことはできません。また、医薬品を商業的に成立させるには技術基準に準拠することが不可欠です。そのため「ペイシェント セントリシティ(患者中心主義)」という言葉は、場合によっては正しい呼び名ではありません。しかし、製品が患者さんのニーズに応えていなければ、CMC、GMP、その他すべてのものは意味をなしません。 

約束を守る方法

弊社では希少疾患患者さんのニーズに的確かつ一貫して照準を合わせ続けるために、開発者ができることを詳細に検討しています。以下の記事をご覧ください。

  • 開発を効率化し、患者さんがプラセボや有効成分を含まない投与を受ける可能性を低減する適応型治験を実施する方法
  • PAGと協力して、科学的要件と規制要件に準拠しながら、患者さんにとってより効果的な治験をデザインする方法
  • 病状に最適な評価項目を選択し、相関分析によって新しい評価項目を検証する方法
  • 迅速審査規制プログラムを活用してアドバイスやガイダンスを入手し、非臨床から前臨床、CMC、臨床に至るまで、開発のあらゆる側面を効率化する方法
  • 細胞・遺伝子治療を取り巻く規制上の誤解を払拭し、より的確な意思決定を行う方法
  • 患者さんが利益を得られるようにするため、市場アクセスの確保に向けた準備を行う方法

障壁は多いものの、患者さんを中心に据えることは現実に即した意味を持ちます。開発の初期段階から患者さんに焦点を当てている企業は、最終的に患者さん中心の医薬品開発という約束を果たし、この進化する概念を医療の最大の目的に沿った確かなものとして実践できます。あの少年のように。

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