希少疾患治験における最適なエンドポイントの選択方法

By Angela Qu, M.D., Ph.D., Senior Vice President, Translational Medicine, Global Head of Biomarkers & Genomic Medicine

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希少疾患治験における最適なエンドポイントの選択方法

希少疾患治療薬の開発における最も困難な側面の一つは、臨床的ベネフィットを確立するための適切なエンドポイントを選択することです。関連性があり、感度の高い有効性エンドポイントを決定するための出発点は、疾患の病因と医薬品の正確な作用機序 (MOA) を理解することです。ただし、希少疾患や超希少疾患の場合、その疾病の自然経過についてあまり知られておらず、治験薬の作用機序が完全に解明されていないことがよくあります。多くの場合、患者さんを見つけることが困難であるため、治療効果を十分に測定できるだけの治験の検出力を確保することが難しくなります。

希少疾患および超希少疾患の最適なエンドポイントを特定することは、多くの労力を要します。急速に進化するこの分野での私の経験に基づいて、最善の方法をいくつかアドバイスさせていただきます。

関連性や利便性の観点からだけでなく、最適なエンドポイントを追求

これまでの経験から、治験依頼者は考えうるエンドポイントは多数あるものの、どれが最も有意義かが不明という状況に直面することが多々あります。このような状況では、最適なエンドポイントを特定することが課題になります。最近、ある治験依頼者から複雑なケースについて相談を受けました。患者さんの運動機能に影響を及ぼす、進行性の神経学的表現型を伴う希少自己免疫疾患の治療法を開発しているとのことでした。この慢性疾患は末梢神経系に体系的に損傷を与えるもので、医薬品が機能の喪失や変化に与える影響を測定するための客観的および主観的エンドポイントが多数考えられます。しかし、臨床的および統計的に最適なエンドポイントはどれでしょうか?また患者さんにとって最も意味のあるエンドポイントは?この疾患のエンドポイントには、ゴールドスタンダードはありません。

このジレンマを解決するために採用したのは、多分野にわたるアプローチでした。弊社の医療専門家が、この疾患の科学的・医療的側面についてキーオピニオンリーダー (KOL) にインタビューを行い、公開されている文献を徹底的にレビューし、類似の適応症で承認された医薬品の説明資料と、承認されなかった医薬品に関する情報を分析しました。徹底的なデューデリジェンスの実施後、治験薬に最適化された、データに基づくエンドポイントセットを提案しました。治験依頼者はこれらをプロトコルに組み込んでいます。 

希少疾患治験に最適なエンドポイントを見つけるには、その疾患に対して徹底的かつ分野横断的なデューデリジェンスを実施します。エンドポイントの選択は、可能な限り科学的かつデータに基づいたものであり、患者さんの優先事項を反映している必要があります。関連性や利便性の高いエンドポイントで妥協しないでください。それらは最適でない可能性があります。

希少疾患の患者集団を詳細に分析

希少疾患に取り組む中で最もよく直面する問題の一つは、疾患の遺伝子標的と複雑な変異プロファイルに関する徹底的かつ詳細な科学的理解が欠如していることです。これにより、患者さんのサブカテゴリ化が不十分であったり、バイオマーカー検査が適切でないなどの理由から、誤った患者集団を治療してしまう可能性があります。 

たとえば研究によると、希少疾患の80%以上が遺伝性であり、約50%が乳幼児と小児に影響を及ぼしています。このような状況では多くの場合、エンドポイントは年齢群、遺伝子型、表現型によるカスタマイズが必要になります。また企業は患者集団を層別化する必要があります。たとえば、2歳以下、3~12歳、および青年期の患者さんは異質性の高いサブ集団を表し、年齢に応じた異なるエンドポイントとカットオフを必要とする可能性があります。さらに、異なる年齢群の希少疾患の患者さんは、疾患進行の段階が異なり、異なる遺伝子プロファイルのサブタイプを持っている可能性が高くなります。 

治験において検討される異なる年齢層の患者さんと疾病発現の異質性を詳細に理解してから、エンドポイントの選択を進める必要があります。たとえば最近、希少筋骨格疾患の遺伝子治療を開発する治験依頼者に協力しました。デューデリジェンス評価では、この疾患の患者さんの歩行能力低下率は、異変サブ集団ごとに異なることがわかりました。治験依頼者と協力して、治験の対象患者サブ集団に合わせて、異なる臨床エンドポイント、カットオフ、バイオマーカーを確立しました。

さらに治験実施施設、医療機関、またはリモートで、各年齢群で選択されたエンドポイントを収集して評価することは、どの程度実現可能で実用的でしょうか?その答えは、治験デザインと質の高い実施におけるエンドポイントの選択に不可欠です。 

NICHD Rare Disease Research

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現在、約10,000種類の希少疾患が知られています。

米国では罹患数が200,000名未満の場合、その疾患は希少と見なされます。

約80%の希少疾患は遺伝性

約50%の希少疾患が子どもに影響を及ぼします

SOURCE: https://www.nichd.nih.gov/newsroom/resources/spotlight/020116-rare-disease-day

規制当局と協力して、エンドポイントを共同開発および検証

開発者は疾患が希少であるため、検証済みのエンドポイントや既存の測定基準がないという状況に直面することがあります。このような状況では、医薬品承認に使用されたことがない、あるいは既存のエンドポイントを大幅に変更した、新しいエンドポイントを開発する必要があります。

Fortunately, regulators understand that developers struggle to identify and validate endpoints in rare and ultra-rare diseases. In October 2022, the FDA launched its Rare Disease Endpoint Advancement (RDEA) Pilot Program to support novel endpoint development and help sponsors qualify endpoints that have “never been used to support drug approval.” About five months earlier, the agency launched its Accelerating Rare disease Cures program (ARC), which also addresses endpoint selection, among other challenges.幸いなことに、規制当局は開発者が希少疾患および超希少疾患において、エンドポイントを特定・検証することが困難であることを理解しています。2022年10月、FDAはRDEA:Rare Disease Endpoint Advancement (希少疾患エンドポイントアドバンスメント)パイロットプログラムを立ち上げ、新規エンドポイントの開発を支援し、「これまでに医薬品の承認に使用されたことがない」エンドポイントを治験依頼者が使用できるようにすることを目指しています。約5か月前、FDAはARC:Accelerating Rare disease Cures (希少疾患治療促進) プログラムを立ち上げ、これもエンドポイントの選択などの課題に対処します。

RDEAパイロットプログラムは、アクティブな治験前新薬 (IND) を持つ開発者や、希少疾患のINDプログラムで新規エンドポイントの使用を希望する開発者にとって、絶好の機会となります。開発者は提案を提出することで、FDAと緊密に連携して助言に基づく話し合いを行ったり、FDAから直接的な助言を受けるなどの機会を得られます。FDAは希少疾患を対象とした自然歴研究におけるエンドポイント提案についても、そのエンドポイントが希少疾患に適用できる十分な根拠がある場合、検討の対象とする場合があります。提案の提出は2023年7月1日から開始され、2027年まで四半期ごとに1名、年間最大3名の応募者が選定されます。このパイロットイニシアチブは、治験依頼者が規制当局、患者団体、ソートリーダー、その他のステークホルダーと協力して、新しいエンドポイントの開発を推進することを目指す新たな経路を構築します。

新しいバイオマーカーやエンドポイントを検証するための相関分析を実施

希少疾患では患者さんの心理面や機能面を対象とした患者報告アウトカム (PRO) など、多くのエンドポイントが主観的です。対照的にバイオマーカーのエンドポイントは客観的測定値です。パレクセルではバイオマーカーおよびエンドポイントの評価と適格性確認を行っています。たとえば、バイオマーカーと主観的測定値の間で相関分析を行うことにより、どちらか一方または両方が希少疾患や、希少なタイプの一般的な疾患において有効かどうかを評価できます。相関分析にはバイオマーカーのデータ、遺伝学、そして臨床症状を理解している計算生物学者と統計遺伝学者が必要です。多くの場合、データは「乱雑」かつ不完全で、分析が複雑になります。しかし、こうした分析は、バイオマーカーやエンドポイントの妥当性を検証するうえで重要です。妥当性が検証されていないバイオマーカーを用いて治療法を開発すると、規制上の理由から失敗に終わる可能性が高くなります。

パレクセルでは臨床試験において、バイオマーカーとエンドポイントの評価と開発に成功してきました。過去18か月間にわたり、弊社のバイオマーカーおよびゲノム医療チームは、300件を超えるバイオマーカーおよびエンドポイント分析プロジェクトを支援してきました。その範囲は遺伝学・ゲノミクス評価から、バイオマーカー・エンドポイントの分析と検証まで多岐にわたります。最近では治験依頼者の医薬品開発プログラムで、バイオマーカー候補の選択と評価を支援し、疾患進行のモニタリングと薬物反応における客観的な代替バイオマーカーのエンドポイントの値とエビデンスを確立しました。

治験において検討される異なる年齢層の患者さんと疾病発現の異質性を詳細に理解してから、エンドポイントの選択を進める必要があります。

Angela Qu, M.D., Ph.D.
Senior Vice President of Biomarker Genomic Medicine, Parexel International

弊社のバイオマーカーゲノム医療の実践では、大手製薬会社や新興バイオテクノロジー企業の治験依頼者と非常に早い段階から話し合いを始めます。多くの場合、プロトコルについての1ページの治験コンセプトから開始し、データとエビデンスに基づくアプローチを使用してデザイン機能を追加します。私たちは自然経過データ、レジストリデータ、ゲノムとバイオマーカーデータ、およびリアルワールドエビデンスを利用して、治験デザインとエンドポイント選択で利用可能なすべての知識を体系化します。国によって異なるデータへのアクセスに関する規則によって生じる障壁を克服するため、弊社ではパートナーシップ、出来高払いの契約、電子カルテデータベース、データマイニングを利用してデータにアクセスし、バイオマーカーと患者さんの選択にインサイトを加えています。

Contributing Expert