施設の小児遺伝子治療臨床試験の管理方法

By Claire Booth, M.B.B.S., F.R.C.P.C.H., M.Sc., Ph.D., Mahboubian Professor in Gene Therapy and Paediatric Immunology (UCL) and Consultant Paediatric Immunologist, Great Ormond Street Hospital (GOSH)

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施設の小児遺伝子治療臨床試験の管理方法

治験依頼者は規制要件を満たしつつ、患者さんにとっての利便性や有益性を考慮して治験をデザインする必要があります。しかし、治験実施施設はどうでしょうか?治験責任医師、看護師、治験コーディネーター、プロジェクトマネージャー、治験実施施設のデータ入力技術者は、臨床研究と患者ケアの最前線で働いています。遺伝子治療の治験は複雑であり、希少疾患を持つ小児患者集団を対象とする場合、実施可能性が最優先になります。しかし、これらの治験は非常に優れた成果を生み、治療法を切望する患者さんやそのご家族の生活を一変させました。学術臨床医のClaire Booth氏が、ヨーロッパ最大で最も経験豊富な遺伝子治療研究施設の一つで学んだ教訓について語ります。

成功の鍵はチームワーク

 私たちは長年にわたって、一貫性を保ちながらも機敏な体制で共に働いてきたグループです。治験の看護師、医師、研究室・製造スタッフ、プロジェクトマネージャー、データマネージャーが、チームとして活動しています。毎週ミーティングを行い、たとえばどの患者さんが来院するのか、どのサンプルが必要か、いつ製品を製造するのかなど、担当している治験について話し合います。私たちは非常に効率よくスムーズに機能しています。過去15年間、チームとして多くの実践経験を積み、常に学び、適応し、改善を続けています。 

私たちは長年にわたって、一貫性を保ちながらも機敏な体制で共に働いてきたグループです。治験の看護師、医師、研究室・製造スタッフ、プロジェクトマネージャー、データマネージャーが、チームとして活動しています。

Claire Booth, M.B.B.S., F.R.C.P.C.H., M.Sc., Ph.D.
Mahboubian Professor in Gene Therapy and Paediatric Immunology  (UCL) and Consultant Paediatric Immunologist, Great Ormond Street Hospital (GOSH)

最大の課題は臨床関連とは限らない

プロジェクト管理とデータ管理は、臨床関連の問題や患者さんに関連する問題よりも大きな課題となることがよくあります。プロジェクトマネージャーは、規制に関して多大なサポートを提供します。プロトコルの改訂、治験依頼者のモニタリング訪問、データ監査、eCRFなどの治験インフラの問題、サンプルの発送を管理します。細胞・遺伝子治療のプロトコルでは、10~15回の改訂が実施されることが多く、プロジェクトマネージャーは膨大な書類作業と細部への配慮が必要になります。 

モニタリングは施設にとって困難な場合がある

治験依頼者によるモニタリング訪問の準備と、受け取ったフィードバックへの対応は、チームの作業負担を大幅に増加させます。プロジェクトマネージャー、治験の看護師、治験責任医師、データマネージャーは、多くの場合、このために多くの時間を割く必要があります。この問題を軽減する方法はわかりませんが、施設によって有効な解決策は異なる可能性があります。たとえばモニタリング訪問の頻度を増やすと、1回の訪問での質問数が減少するため、作業間隔が広がり、他のプロジェクトのための時間を確保することができます。ただしこの場合、訪問が隔週のように感じられることもあります。訪問間隔を3ヵ月または6ヵ月にすると、施設スタッフはモニターとデータを確認し、質問に答える時間が長くなる可能性があり、これもチームに適さない可能性があります。一つの解決策 (成功例はありますが、常に有効というわけではありません) として、プロトコルと症例報告書について幅広い知識を持つ専任のデータマネージャーを置くというものがあります。この担当者がモニターとデータを確認しながら指導し、疑問をリアルタイムで解決します。 

患者さんのニーズを考慮

患者報告アウトカム (PRO) は、各国で非常に注目されているテーマです。臨床試験のデザインや承認において、PROはしばしば形式的なチェックリストの項目として扱われてきました。規制当局や保険者は規定どおりに、治験デザインにPROが含まれているかどうかを治験依頼者に確認しています。しかし、そこにはより深い分析が求められます。選択したPROは、患者さんとそのご家族にとって重要な情報を適切に捉えているのでしょうか?患者支援団体 (PAG) との話し合いで、親御さんから「従来」の治験のアウトカム指標が、お子さんの生活にとって本質的なものを反映していないという声がありました。たとえば血小板数が少ない血液疾患を患い、出血のリスクがあるお子さんにとっては、治験の主要評価項目である「正常な血小板数」よりも、大きな出血の心配をせずにスポーツをしたり、学校に通ったりできるかどうかを重視するかもしれません。規制当局は多くの場合、達成/未達成のレベルを数値という明確な証拠として要求する傾向にあります。それは理解できますが、一方で患者さんの生活の質に不可欠なデータを捉えていない可能性があります。これまでの治験デザインには、患者さんや介護者の視点が十分に反映されていませんでしたが、この状況は変わりつつあります。

患者さんのリモートモニタリングには限界がある

リモートモニタリングは患者さんにとって画期的な変化をもたらしましたが、患者さんと直接接触する機会がなくなると、重要な臨床データを見逃してしまうことがあります。対面でのやり取りは、特に治験の初期段階において依然として重要です。しかし、新型コロナウイルス以降、患者さんはこのアプローチに慣れ、地元の病院で「診察」を受けながら、治験チームとも連絡を取り合えることを好むようになりました。参加の負担が軽減するという理由もあります。
 
 しかし、患者さんのケアは、血液検査の実施やデータトレンドの分析だけではありません。患者さんやご家族の生活の質、全般的な健康状態は重要です。ビデオや電話で包括的なアプローチを実現するのは困難です。これは治験にも一般検診にも当てはまります。1年ぶりに患者さんを対面で診察した際に、首のしこりの発見が遅れ、重大な健康問題に発展するという可能性もあります。患者日誌が記入されていても、リモートで患者さんの状態を詳細に把握することはできません。 

リモートデータ モニタリングにも限界があります。データモニターはデータ入力担当者や、患者さんと直接やり取りをする治験責任医師や看護師と話をしたいと考えています。モニターが繰り返し発生している問題に気付いた場合、対面で問題を整理して、根本原因を突き止める方が簡単なことが多々あります。 

患者さんとより良いコミュニケーションを

患者さんは、治験実施施設、治験依頼者、患者さん、PAG間のコミュニケーション不足に不満を感じています。治験の開始では、参加者の募集や関心を高めるための活動が盛んに行われ、多くの労力が費やされているにもかかわらず、その後の6ヵ月、12ヵ月、あるいは24ヵ月の間、更新情報が提供されないと感じています。患者さんは参加した治験の結果について何らかの報告を受ける前に、新聞でその進展について知ることさえあるかもしれません。そこで私たちは、患者さんとのコミュニケーションをより上位の課題に位置付けました。患者さんへの情報提供が疎かになってはなりません。 

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