創薬の初期段階におけるモデリング&シミュレーションと人工知能

14 min

By Neil Attkins, Senior Vice President, CPMS

Silvia Lavezzi, Director CPMS

公開日:2026年7月14日

 

創薬の初期段階において、モデリング&シミュレーション(M&S)と人工知能(AI)の価値は、単にこれらを活用することではありません。より優れた開発戦略の策定に役立てるため、いつ、どのように、どの意思決定の段階で導入すべきかを見極めることが重要です。

 

製薬業界は今、転換点を迎えています。その背景には、プロトコルの複雑化、資金調達環境の厳格化、変化を続ける規制当局の期待、そして開発初期から一貫性のあるデータに基づいた価値を示すことへの絶え間ない要求があります。このような状況において、モデリング&シミュレーション(M&S)と新たな人工知能(AI)ツールは、開発プログラムの設計、実行、結果の解釈のあり方を変革するうえで極めて重要です。一方で、それぞれの役割を明確に区別し、過度な期待と現実を見極め、これらのアプローチをどのように組み合わせれば最大限の効果が得られるかを理解する必要があります。

 

M&Sは数十年にわたって医薬品開発に不可欠な役割を果たしており、規制上の意思決定においても確立された手法です。近年では、モデルを活用した医薬品開発の一般原則に関するICH M15ガイドライン(ICH M15)が策定され、2026年7月23日に発効しました。同ガイドラインは、モデルを活用した医薬品開発(MIDD)について、計画、モデル評価、エビデンスの文書化、規制当局とのやり取りに関する期待事項と推奨事項の調和を図るものです。これに対しAIは、医薬品開発に比較的最近導入された技術であり、主としてアシスタントの役割を担い、ワークフローの一部または全体の自動化を支援することで、プロセスを迅速化します。

 

M&SとAIは強力なアプローチですが、組み合わせて活用することで、さらに大きな効果を発揮します。ただし、その価値を最大限に引き出すには、個々の科学的課題や開発上の意思決定に、どのアプローチ、あるいはどの組み合わせが最も適しているかを理解する必要があります。医薬品開発の初期段階における適切なタイミングで慎重に適用されれば、これらのツールはより強力なエビデンスを生み出し、より情報に基づいた意思決定を可能にし、開発期間全体を短縮することができます。

 

1. M&Sによる意思決定の高度化と早期の失敗リスク検証

 

最も効果的な開発プログラムでは、初期段階からM&Sを組み込み、それぞれの試験で得られる知見に一貫性を保ちながら、進化するエビデンス基盤へと結び付けています。M&Sはデータと知識を統合することで、用量の選択とその妥当性の説明、試験デザインの検討、治療効果が最も期待できる患者集団の特定など、さまざまな意思決定に価値をもたらします。その役割は、薬剤が有効であるかどうかの評価にとどまらず、不確実性の特徴付け、代替仮説の評価、そして臨床的成功を決定づける可能性が最も高い要因の特定にまで及びます。M&Sの価値が最大限に発揮されるのは、開発上の適切な意思決定の段階で、それぞれの課題に適したアプローチを採用したときに実現されます。

 

重要なのは、M&Sが単発的な取り組みではなく、医療品開発における継続的な要素であるという点です。新たなデータソースが利用可能になり、新しい課題が生じるたびに、異なるモデリング手法が採用されます。これには非臨床試験の知見を活用して、ヒト初回投与試験(FIH)の用量選択を支援する初期のトランスレーショナルモデルから、ヒトにおける薬物動態、標的への作用、有効性、安全性のデータを統合する臨床モデルまで、多様な手法が用いられます。モデルが改良されたり、新たなM&Sのアプローチが導入されることはありますが、開発上の意思決定に役立つ定量的な知見を提供するというM&Sの基本的な役割は変わりません。

 

事例: M&Sの汎用性を示す例として、体重に基づく用量設定から固定用量レジメンへの移行という、代替投与戦略を評価したスポンサーの開発プログラムがあります。既存の臨床データと母集団PK/PDモデルを活用したシミュレーションにより、曝露量、安全性、有効性が同等であることが示され、追加試験を実施することなく代替投与戦略を裏付けることができました。これにより、ベネフィット リスクプロファイルに対する信頼性を維持しながら、投与の複雑さを軽減し、実用性を向上させることが可能になりました。

 

導入時期も極めて重要です。M&Sを早期から開発プログラムに適切に組み込むことで、開発の進め方そのものを大きく変えることができます。理想的にはFIH試験よりも前の段階からモデリングの専門家を交えることで、利用可能なデータを包括的に評価し、不足している情報を特定したうえで、堅牢なトランスレーショナル戦略を構築できます。

 

事例: 複数のFIHプロジェクトにおいて、パレクセルは非臨床データを用いてトランスレーショナルPKモデルを構築し、必要な薬理効果および潜在的な毒性に関連する曝露閾値をそれぞれ特定しました。その後、モデルシミュレーションを用いて臨床用量を予測することで、幅広い用量範囲における安全性、PK、さらに可能な場合には標的への作用を効率的に検討できるFIH試験をデザインしました。

 

薬物間相互作用(DDI)、肝機能障害または腎機能障害が曝露量に及ぼす影響、QT延長などの評価においても、M&Sはリスクを予測し、試験デザインを検討するための強力な手段となります。このような場合、M&Sは臨床評価を補完し、場合によってはその代替手段となることもあります。

 

事例: 患者さんが治験薬(IMP)の代謝に重要な酵素へ影響を与える併用薬を使用することが想定される第2相試験において、パレクセルはM&Sを活用し、薬物間相互作用と、それが治験薬の曝露量に及ぼす影響を予測しました。非臨床データと初期臨床データを統合して解析した結果、特定の併用療法が曝露量に臨床的に意味のある変化をもたらさないことが示され、第2相試験の選択基準を拡大することが可能になりました。このアプローチにより、患者さんの安全性を維持しながら不要な制限を回避し、患者募集を容易にすることができました。

 

規制上のモデルの重要性は、その技術的な高度さだけでなく、どのような目的や状況で使用されるかによっても異なります。既知の薬剤クラス、作用機序、標的など、十分な知見が蓄積されている状況では、過去の知識や経験に裏付けられた堅牢なモデルによって、有用な知見を得ることができます。一方、前例の少ない新たな領域においても、M&Sは不可欠です。利用可能なエビデンスを体系化し、仮定を評価し、不確実性を明らかにするとともに、知識の蓄積に応じて開発上の意思決定を導くことができます。

 

M&Sは開発のどの段階でも活用できますが、一般的に早期に組み込むほど戦略に影響を与え、不確実性を低減できる機会が増えます。当初から定量的な枠組みを構築することで、用量選択、試験デザイン、開発計画についてエビデンスに基づく意思決定が可能となり、その後の臨床開発および規制上の重要なマイルストーンに向けた、より強固な基盤を築くことができます。

 

2. AIによる試験デザイン、試験実施、データの文脈化の迅速化

 

AIは膨大な科学、臨床、規制関連情報からパターンを迅速に特定し、情報を統合してインサイトを抽出することで、開発上の意思決定を支援します。パレクセルでは、独自のAIを人間の医学的専門知識によって監督・強化しながら活用し、試験デザインを評価するとともに、提案された評価項目が規制当局の期待に沿っているかを検討しています。結果を解釈し、科学的妥当性を確保したうえで、AIが生成したインサイトを開発プログラム全体の中に位置付けるには、専門家による監督が引き続き不可欠です。

 

より具体的には、パレクセルは初期開発にAIを導入し、試験デザインの最適化、実施医療機関と患者の選定、試験開始プロセスの迅速化を図っています。これには、統計プログラミング、実施医療機関との契約、研究費の管理、支払いなどが含まれます。

 

たとえば、AIを活用したツールでは、過去の膨大なプロトコルや公表文献を解析することが可能であり、評価項目、適格性基準、試験デザインのパターンを特定できます。さらに、規制当局の期待との間に生じる可能性のある不整合を明らかにし、過去のエビデンスに基づいて試験デザインの最適化案を提示することも可能です。こうした解析では、一般に公開され、適切に管理されたデータソースを使用することで、クライアントの機密情報を確実に保護しています。

 

AIの真の価値は、解析の速さや規模だけでなく、科学的専門知識を強化できる点にあります。AIを適切な臨床および規制上の背景に照らして慎重に活用し、その結果を解釈することで、意義のあるインサイトを生み出し、より多くの情報に基づいた開発戦略を支援できます。

 

AIとM&Sのアプローチによる価値の最大化

 

AIとM&Sは、それぞれに独自の機能を備えており、適切な状況で戦略的に活用することで医薬品開発を強化できます。その効果が最大限に発揮されるのは、初期のトランスレーショナル計画から臨床開発に至るまで、開発プロセス全体を通じて両者を組み込み、変化し続ける科学、臨床、運用、規制の各分野で生じる課題に対処する場合です。

 

最も成功している開発プログラムでは、AIとM&Sを個別に扱うことはありません。その代わりに、適切なタイミングで適切なアプローチを採用し、定量的なエビデンスを活用して、試験デザイン、用量選択、患者集団の選定戦略、エビデンス創出計画、新たなデータが得られるたびに行われる重要な開発上の意思決定に役立てています。あるアプローチから得られたインサイトが、もう一方の活用方法に示唆を与え、その効果を高めることで、意思決定のためのより強固な基盤を構築できる場合もあります。最終的にAIとM&Sの価値を左右するのは、いかに開発戦略に適切に組み込むか、基盤となるデータとエビデンスの質、そして得られたインサイトを解釈して行動へとつなげる専門性です。これらのアプローチを早期から開発に組み込み、継続的に活用することで、不確実性を低減し、より多くの情報に基づく意思決定を支援するとともに、新たな治療法を患者さんへ届けるまでの期間を短縮することができます。

 

Close

アラート

日本語のウェブサイトから英語のウェブサイトへ移動します。続きをご覧になりますか?