今日の第I相試験を支えるデータオペレーションの高度化
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Tim Audin, Senior Director, Global Biometrics Oversight
Raul Urmet, Senior Manager, Global Biometrics Account Lead
公開日:2026年7月1日
新興バイオテクノロジー企業は、現在、非常に競争の激しい開発環境に置かれています。開発資金は限られる一方で、いち早く上市することが求められ、さらにアンメットメディカルニーズや希少疾患を対象とする治療薬については、規制当局も柔軟な承認を採用する傾向にあります。場合によっては、第I相試験のデータだけで承認に至るケースもあります。
こうした背景から、早期臨床開発のデザインは年々複雑化しています。健常ボランティアのみを対象とした試験は少なくなり、健常ボランティアと少数の患者コホートを組み合わせた試験が採用されています。このような環境下では、競争力を左右するのはどのデータを収集するかではなく、複雑なデータをいかに迅速に解析し、試験の「実施/中止」の判断につなげられるかという点にあります。
多くのスポンサーやCROにとって、データ量の多い第I相試験のボトルネックは、科学的な課題ではなく、オペレーションにあります。従来型の運用モデルでは、スポンサーごとにカスタマイズされた症例報告書(CRF)ライブラリ、フォーム設計に関する調整、すべての表・図のスポンサーによるレビュー、電子データ収集(EDC)への手入力とそれに伴うソースデータ検証(SDV)、さらに逐次的なプログラミング ワークフローなどによって、数週間もの遅延が発生しています。例えば、同じデータ項目にもかかわらず、50種類ものEDCフォームを運用しているスポンサーも存在します。
標準化から逸脱することによるコストは決して小さくありません。ある試験では、スポンサーがパレクセルの標準化された電子CRFデザインを採用せず、独自仕様への再構築を求めました。しかし、本番稼働後に結局は当初の標準デザインへ戻すことになり、その結果、数週間の遅延に加え、データの欠落や施設での再入力といったリスクが生じました。また別のプロジェクトでは、施設が記入する質問票についてスポンサー側に標準様式がなく、何度も変更が繰り返された結果、文書完成まで6ヵ月を要しました。最終的に採用されたのは、当初パレクセルが提案していた標準化テンプレートでした。
パレクセルでは早期臨床開発をより迅速に支援するため、デリバリーモデルと世界5大陸にまたがる2,000名以上のスタッフを擁するグローバル データ オペレーションズ (GDO)組織を刷新しました。この組織は早期臨床開発に特化した高い専門性も備えています。専任チームに加え、約40名の臨床薬理学 モデリング シミュレーション(CPMS)専門チームが、中間薬物動態(PK)レポートを通常2〜3日、複雑な試験でも5日以内に作成し、用量漸増を支援しています。2024年以降、パレクセルは最後の治験参加者の最後の訪問 (LPLV:Last Participant Last Visit) 後の標準的なバイオメトリクス業務の期間を約半分に短縮しており、最悪のケースを想定したコミットメントスケジュールでさえ、業界の上位4分の1に位置しています。このプロセスの結果、現代の早期臨床開発を支える運用モデルには、次の4つの原則が不可欠であると考えています。
1. 標準化されたデータ収集
データ収集を効率化するため、スポンサーが独自に作成したフォームをCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)準拠の変更不可な標準テンプレートに置き換えました。CDISC標準フォームは、子ども用ボウリングレーンのガター防止ガードのようなものです。誰が試験を設定しても、毎回正しいデータが収集されます。
パレクセルでは検証済みのeSourceシステムとして、ClinBase™を採用しています。このシステムはベッドサイドでリアルタイムにソースデータを取得し、医療機器との連携、バーコードスキャン、21 CFR Part 11に準拠した完全な監査証跡を提供します。データ転記が不要なため、ソースデータ検証 (SDV) も不要になります。
ClinBaseの構築は、臨床試験プロトコル (CSP) 確定後5〜6週間以内で完了します。外部施設を含む試験においては、電子データ収集 (EDC) が大きな差別化要因になります。2025年の第3四半期からパレクセルは、EDCの構築期間を従来の12週間から8週間へ短縮しました。EDCは従来、早期臨床開発において扱いにくいことで知られていましたが、この短縮によってスケジュール上の遅れを解消しています。さらにClinBaseからEDCへの自動化により、スポンサーは通常発生するデータの再転記に伴うバックログを抱えることなく、施設内試験からハイブリッドモデル(弊社のEPCUと外部施設を組み合わせたモデル)へと移行できるようになります。スポンサー向けのカスタマイズにも対応していますが、その場合に生じるコストやスケジュールへの影響も事前に明示し、これまで見えにくかったトレードオフを可視化しています。
2. 透明性の高い3段階の複雑性評価システム
試験の複雑性を事前に明確化しなければ、スポンサーは実現困難なスケジュールを提示され、双方の信頼関係が損なわれます。
パレクセルでは、提案依頼書 (RFP) の段階で、すべて早期臨床開発を「低」、「中」、「高」の3段階で評価します。評価項目には治験参加者数、固有のCRF、データセット、表・図・一覧表 (TFL)、試験パラメータ検証 (TPV)、試験デザイン、試験パート数などの客観的な指標を用います。
各評価には、最後の治験参加者の最後の訪問 (LPLV:Last Participant Last Visit) 後のエンドツーエンドのバイオメトリクス処理期間として確約された期間が設定されています。「低」複雑性試験は26~30営業日、「中」複雑性試験は36~40営業日、「高」複雑性試験は46~50営業日です。この期間はLPLVから内容承認済みの臨床試験報告書 (CSR) までの期間と定義されており、第三者ベンダーのデータおよびこれに関連するTFLについては、別途報告されます。
試験の複雑性の評価は、データマネージメント、生物統計部門、統計プログラミング、メディカルライティング、およびCPMSの各部門で共通の基準として運営されており、バイオメトリクス部門全体が同一のスケジュールに基づいて業務を進めます。
目的は試験の進行を遅らせることではなく、想定外の遅延や手戻りを防ぐことです。スポンサーは試験開始時点で全体像を把握でき、そのスケジュールを達成するために必要な対応もあらかじめ理解することができます。
3. パートナーシップを重視したレビュー体制
各プロジェクトでは、顧客ごとに専任のデリバリーリードが担当し、顧客との関係構築およびコミットしたスケジュールの達成に責任を負います。スポンサーは規制要件に基づく監督責任とデータの可視性を全面的に維持しながらも、レビューでは日常的なバイタルサインの表をすべて確認するのではなく、試験の「実施/中止」の判断に直結するエンドポイントデータに重点を置くことができます。スポンサーが集中的なレビューを1回実施することを前提とすれば、最終的な統計解析結果は、データベースロック(DBL)後5~15営業日で提供可能です。
パレクセルがコミットするスケジュールは、あらかじめ公開している運用条件を前提としています。その条件には、スポンサーによるレビューを1回に限定すること、データベースロック(DBL)前にドライランを完了し、その後にプロトコル変更が行われないこと、LPLVから2日以内に最終データ入力を完了すること、さらにスポンサー側とパレクセル側の双方でグローバル データ オペレーションズ (GDO) のリソースが十分に確保されていることが含まれます。このモデルではスポンサーに対して、標準化されたCROの品質管理プロセスを信頼していただくことが求められます。しかし、その信頼は求めるものではなく、透明性を通じて築き上げるものでなければなりません。
4. テクノロジーとAIを支える基盤
この運用モデルにおいて、テクノロジーが価値を発揮するのは、特定のボトルネックを解消できる場合に限られます。これまでクリティカルパス上にあり、データの転記・変換・照合作業を手作業で行っていた工程を優先的に自動化することで、専門家が作業そのものではなく、データの解釈や判断に注力できるようにしました。その最も分かりやすい例がデータ変換です。2025年10月以降、Palantir Technologies社の人工知能プラットフォームを基盤とした生成AIにより、SDTM (Study Data Tabulation Model) データセットを、データ転送マッピング仕様の確定から2日以内に作成できるようになりました。この工程は従来、完了までに数週間を要していました。さらにAIを活用した解析用データセット (ADaM) および表についても、2026年にかけて同様の進展が見込まれています。
同様の理論は、メディカルライティングにも適用されています。AIによる支援により、CSR (治験総括報告書) の初稿作成期間を約1週間短縮するとともに、パレクセルの社内データ (未公表) では、本文後に表へ変換する作業時間を約67%削減しています。さらに重要なのは、こうした効率化によって実現される作業の進め方です。作成者は最終結果に依存しないセクション (緒言、治験方法、模擬結果、ナラティブ、データに依存しない付録) を最終的な表の作成に先立って起草し、その全工程で人間のレビューを受けます。これにより、最終表の完成後から報告書完成までの期間を16~25営業日に短縮できます。予測可能で順序立った作業を自動化することこそが、単なる目標ではなく、確固たるスケジュールを実現可能にするのです。
テクノロジーは、このパートナーシップモデルを支える役割も担っています。スポンサーによる的を絞ったレビューは、試験終了後にデータを監査するのではなく、データが蓄積される過程を継続的に確認できることを前提としています。そのためパレクセルでは、継続的な可視性の向上に投資してきました。統合ワークベンチであるElluminateは、あらゆるデータソースを一元的に統合するとともに、ほぼリアルタイムでデリバリー指標を提供します。信頼を支えるのは、試験終了後に100%レビューを行うことではなく、データの状況をリアルタイムで可視化できることです。こうした継続的な可視性によって再確認に頼るのではなく、私たちは信頼に基づく運用を実現しています。
複雑化する第I相試験に不可欠な透明性の高いデータオペレーション
現代の医薬品開発において、複雑化した第I相試験の実施は、開発リスクを低減するための重要な手段となっています。しかし、それらを従来型のデータオペレーションで運用し続けることが、開発スケジュールを数ヵ月単位で遅らせる要因にもなっています。弊社の経験上、効率的で高度なデータオペレーションを実現するためには、スポンサーとCROとの間で信頼に基づく協働体制を構築することが不可欠です。そして、その信頼を築くための第一歩が透明性です。
標準化されたデータ収集、複雑性に基づく明確な評価基準、そしてパートナーシップを重視した運用モデルを組み合わせることで、現代の第I相試験が持つ科学的な価値を維持しながら、数週間で根拠に基づく試験の「実施/中止」の判断を導き出すことが可能になります。それにより、限られた開発資金を有効に活用するとともに、次の資金調達や提携に向けた議論において、開発アセットの価値を維持・向上させることにもつながります。
